第102話「見えない声」
第102話を読んでいただきありがとうございます。
掲示板を通して、少しずつ集まり始めた“名前のない声”。
それは誰のものなのか分からないけれど、確かに誰かの本音です。
圭太とミリアが始めた「聞く記録」は、
残された言葉を読むだけのものから、
少しずつ“誰かと向き合う時間”へと変わってきました。
そして今回、初めて
「話を聞いてほしい」という声が、ふたりに直接届きます。
小さな変化の始まりの回になります。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
掲示板が設置されてから、一週間が過ぎた。
図書室の前の小さなボードには、
さらに紙が増えていた。
誰も貼っているところは見ていない。
でも、朝になると一枚、また一枚と増えている。
ミリアはゆっくりと一枚を読む。
「家に帰ると、誰とも話さない日がある。
でも学校では、元気なふりをしてる。」
その文章の最後には、小さくこう書かれていた。
「誰かに聞いてほしかっただけです。」
ミリアはその紙をしばらく見つめていた。
「……聞きたいな」
ぽつりとつぶやく。
その声に、圭太が後ろから言った。
「きっと、その人もそう思ってる」
ミリアは振り向く。
「でもさ、誰だかわからないじゃん」
圭太は掲示板を見上げた。
「分からないからいいのかも」
「え?」
「名前がないから、本音を書ける。
そして、読む側も勝手な想像ができる」
ミリアは少し考えた。
「……それ、なんか“声”に似てる」
「声?」
「うん。誰の声か分からなくても、
聞いた人の心には残るから」
廊下の窓から、午後の光が差し込んでいた。
そのとき、ミリアが一枚の紙に気づく。
今まで見たことのない文字。
「もし、ここで話せるなら
ひとつだけ聞いてほしい。」
その下には、時間が書かれていた。
放課後 図書室
ミリアと圭太は顔を見合わせた。
「……これ」
「たぶん」
圭太が小さくうなずく。
「初めてだな」
ミリアは少し緊張したように笑った。
「うん」
そして、掲示板を見ながら言った。
「誰かが、“聞いてほしい”って言ってる」
圭太は静かに答えた。
「じゃあ、聞こう」
廊下にはまだ人の気配が残っていた。
けれど、ふたりの中ではもう
放課後の時間が始まっていた。
──そしてその日の放課後。
図書室の扉が、静かに開いた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
掲示板という小さな場所から始まった“声の記録”ですが、
今回ついに「直接話を聞く」という形へと進みました。
言葉を残すことも大切ですが、
誰かがその声を聞く時間も、同じくらい大切なものなのだと思います。
これから圭太とミリアは、
さまざまな“声”と出会っていくことになります。
その声がどんな物語を連れてくるのか、
これからも見守っていただけたら嬉しいです。




