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マレーン・サーガ 祝1.8万PV達成  作者: いのそらん
第17章 はじめての町
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はじめての町 その10 決闘


扉がノックされ、ストレバウスが開けると、そこには・・・。


 整った顔立ちに、柔らかな金髪。やはり息子だけあって、エランによく似ていた。

 貴族らしく、マレーン王国民の特徴でもある、ほとんど色素のない白い髪を綺麗に染め上げていた。

 その青年は、背筋を伸ばし、礼儀正しく微笑んで立っていた。


「お初にお目にかかります。セルナ代官、オルレン・ウアラ・オウジシと申します。」


 声は柔らかく、態度も丁寧。

 だが、その視線はガリンを素通りし、まっすぐルルテへ向けられていた。


「姫様におかれましては・・・このような場所でお目にかかれるとは、光栄の至り。」


 オルレンは大げさに手を広げ、その手を胸に当てると、優雅に腰を曲げ頭をさげた。

 ルルテは、それを見て明らかに面倒そうに片手を上げた。


「よい。形式ばった挨拶は不要だ。用件を申せ。」


 この好青年っぽい貴族を、本当に嫌いなのだなと、サラは扉の横で面白おかしそうにルルテを観察している。

 ルルテは、それも気に入らなかったが、勝手にルルテの前に進み出ているオルレンからはサラは見えない。

 あまりに無遠慮に笑えば、侮辱したと取られてもしょうがない。

 ルルテは視線でサラに注意を促したが、サラは一向に聞く様子はなかった。


 オルレンは微笑みを崩さぬまま、わずかに身を乗り出した。


「姫様ほどのお方が、このような粗末な宿にお泊まりとは・・・。どうか、私の屋敷へお移りいただければと・・・。」


 ガリンが、


「粗末?」


 と平坦で、少し冷たさのある声を上げる。

 扉の横でサラの隣で控えていたバラクの顔が青ざめる。

 オルレンは、まるでガリンの発言などなかったように、ルルテに再度屋敷に移る様に促すのだった。


 ルルテの顔に危険な色が宿る。

 ルルテの周囲の空気が、わずかに震えた。

 ガリンは、ルルテのこの顔をよく知っていた。


「断る。我らは旅の途中だ。屋敷に移る理由はない。」


 オルレンは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑顔を取り戻した。


「ではせめて・・・姫様のお側に仕える者として、私が護衛に付きましょう。」


 今度はそう言いながら、ガリンを一瞥した。


「ん?あまりに貧相で、しかも小さかったので、目に入りませんでした。そちらの方は?ああ、護士でしょうか?まだ内々とは言え、姫様の婚約者とは聞いておりますが・・・。どうにも、頼りないですね。今からでも、このオルレンが。そうだ。子供のころのように『オルン』とお呼びください。」


 一気にまくしたてるオルレンに、ガリンが静かに眉間に眉を寄せた。


 サラもあからさまに厳しい表情をして、扉の前から移動するそぶりを見せたが、ルルテが手で制した。


「オルレンよ。そなた、まさか、我の婚約者を侮辱しておるのか。」


「いえいえ、侮辱など・・・。ただ、姫様ほどの方には、もっと相応しい・・・。」


 オルレンの声には、焦りも嘲笑もない。

 ただ笑顔を浮かべて、事実を言っているだけといった自信が見えた。

 ある意味で、貴族らしい。

 そして、オルレンにはその自信もあったのだろう。

 彼は幼い頃から「ルルテの隣に立つべきは自分だ」と周囲に言われ続けてきた。

 その思い込みが、今も彼の背筋を支え、大きなうぬぼれにもなっていたのだ。


 その瞬間、ルルテの鋭い声が響いた。


「黙れ。」


 部屋の空気が一変した。

 さすがに、オルレンの笑顔が固まる。


「そなた、我の婚約者を軽んじるということは・・・我を軽んじるということであるぞ。」


 オルレンは慌てて言い訳をしようとしたが、ルルテは立ち上がり、冷ややかに告げた。


「よい。ならば、決闘で白黒つけるがよい。」


「け、決闘・・・ですか?」


 ほんの少しだけ焦りが見えたオルレンの顔が、愉悦に歪む。


「そうだ。そなたが我の婚約者を侮るというなら・・・実力で示してみよ。」


 オルレンはルルテのあまりの勢いに、一瞬だけ怯んだが、すぐに顔を引き締めた。


「望むところです。では・・・姫様の護士と。それは、私が勝てば、護士として認めてくれるということでしょうか。」


「勝てるのであれば、父に進言しよう。」


 ルルテが、ガリンを一瞥して頷く。


「それは、ルルシャメルテーゼの名に誓ってということでよいのでしょうか?」


 オルレンの確認に、ルルテが見返すように頷く。


 もちろん、そのやり取りを横で見ているガリンは、深くため息をつくしかなかった。


「私ですか?」


 ルルテが、ガリンの肩に手を置く。


「期待しておるぞ、我が護士。我が片翼よ。」


 その『片翼』という言葉を聞いて、オルレンが馬鹿にしたような目でガリンを見る。


「男爵風情が・・・。」


 ルルテは、その呟きを聞き逃しはしない。

 何も言わず、その目に冷たい色をたたえ、ただ、小さく笑った。


「殺すでないぞ。エランに怒られるでな。」


 その言葉を聞いたオルレンが、明らかに顔を曇らせた。


 ガリンは眉間に眉を寄せたまま、静かに頷くのだった。


 決闘の場所をどうするかという話になった時、ルルテは面倒そうに手を振った。


「ここでやれば良い。」


 あまりに当然のように言い放つので、サラが思わず目を丸くする。

 ルルテはバラクに視線を向けた。


「宿の許可を取ってきてくれぬか。」


 ルルテの言葉はその物言いは丁寧であったが、反論を許さない、そんな雰囲気をたたえていた。


「は、はいっ・・・!」


 当然、普通の人間であれば、この威圧感には太刀打ちはできない。

 バラクは慌てて部屋を飛び出していくのだった。


 サラとストレバウスは、結局使わなかった机といすを部屋の端へ寄せ始めた。

 机が端に寄せられるたび、木の軋む音がやけに大きく響いた。

 ルルテは部屋の隅に移動し、サラとストレバウスが自然とその前に立つ形になる。


 場が整うと、ガリンとオルレンは、部屋の中央で向かい合った。

 ガリンはサラに手を伸ばす。


「短剣を貸してくれますか。」


「おいおい。相手はロングソードさね。こんな小さな短剣で、大丈夫かい・・・?」


 サラは呆れながらも短剣を渡した。

 サラはガリンの強さを知っていたが、それはあくまでも文様術を使った強さである。

 確かに、野営で襲撃を受けた後、あの商人の意識を刈り取った手刀は見事だった。ただ、それだけでは、さすがのサラでもガリンの文様術以外の強さはわからない。普段のガリンを見ていれば、とても武芸に秀でているようにはみえないのも事実だ。それでも、この場で何を言っても、決闘は止まらないだろう。そして、ガリンは既に戦うことを決めていた。


 ガリンは眉間に眉を寄せたまま、サラから借りた短剣の元力石を指輪で軽くなぞる。

 その仕草は、まるで深呼吸のように静かだった。


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