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マレーン・サーガ 祝1.8万PV達成  作者: いのそらん
第17章 はじめての町
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はじめての町 その8 コンシェルジュの才

 部屋割は宿には伝えていない。しかし、この男は迷わずサラの部屋をノックした。他の部屋から誰も出てきていないのを見れば、それは一目瞭然だった。


 この一行には王族と貴族がいる。だから、こういう場合は、一行の中で最も身分が低そうな者に取次をお願いするのが礼儀だ。この男は、それを忠実に守ったのだろう。どうして部屋割が分かったのかは分からないが、こういうところも貴族御用達の宿屋としての特徴なのかもしれない。


 サラは、分からないことをいつまでも考える性格ではない。すぐに切り替えると、


「ちょっと待ってておくれよ。少なくともうちが聞いてもしょうがないさね。ただ、この格好じゃねぇ・・・。」


 そう言ってシャツの裾をひらひらさせると、そのまま扉を閉めて着替えに戻った。男は顔色を変えず、


「畏まりました。」


 と頷いただけだった。


 サラは少しだけ面白くなさそうに、心なし苦笑いを浮かべた。上半身はそのままで、綿と麻に動物の毛を織り込んだズボン下を履き、その上から皮の腰帯を付けた。そして再び扉を開けた。男は変わらぬ笑顔で待っていた。


 サラはその男に視線を向け、自分の前のストレバウスに


「この部屋に皆を集めるから準備をしてくれ」


と伝え、そのままガリンとルルテ達に次々と声を掛けた。


 ガリンはすぐに出てきたが、ルルテとジレはなかなか出てこない。おそらくジレがルルテの着付けをしているのだろう。


 30分ほど経って、ようやく全員がストレバウスの部屋に集まった。その間も、知らせを持ってきた男は一切表情を変えず、ただ廊下で静かに待っていた。


 全員が集まると、部屋の一番奥にサラ、その横にストレバウス、入り口側にガリン。この3人は立ったまま男を見つめていた。そして、中央から右にルルテが椅子に座り、ジレの横にレイレイがくっつくように手を繋いで男を見つめていた。レイレイは、まだ少し眠気の残る瞳でジレの手をぎゅっと握っていた。覚醒していない時のレイレイは、年相応の女の子にしか見えなかった。

 心配はないかもしれないが、サラが指示した位置取りである。


 ガリンはいつものローブ、ストレバウスはシャツにズボンという簡素な服装。ジレは昨日と同じ女官服を着ていた。ただ、ルルテはまた昨日とは違う白いフリルのついたワンピースを着ていた。髪には小さなティアラが光っている。レイレイは、屋敷にいた時から着ている三角の帯の模様の入った貫頭衣だった。

 サラはルルテの格好を見た瞬間、


『一体どれだけ服を持って来たんだ』


 と頭が痛くなった。


 先程まで一切表情が動かなかった宿の男は、ルルテを見るなり、わずかに喉が上下した。王族の気配には、訓練された者でも抗いがたいのだろう。


 男が皆の見えるところに来ると、椅子に深く座ったルルテが、


「何の知らせだ?申してみよ。」


 そう、手招きするように手を振った。ルルテ自身は自然体のつもりなのだろうが、その仕草には王宮で育った者の威厳が滲んでいた。


 男は一瞬だけ身体をこわばらせると、ルルテの前に膝をつき、頭を下げたまま知らせを告げ始めるのだった。

 まるで簡易的ではあったが、玉座の前に傅くような光景であった。


 男は膝をついたまま報告を始めた。

 持ってきた知らせは2つであった。


 1つは、昨日、セルナの町に入る際、関所に預けた襲撃者たちの生力石の確認についてである。昨日のうちにすべての鑑定が終わったとのことだった。詳しい内容は登記所から正式に報告が届くそうだが、男の伝えたところによれば、襲撃者の半数に賞金が掛けられており、報告書を持って傭兵斡旋所へ行けば賞金を受け取れるという話であった。


 さすが、貴族が絡むと仕事が速い・・・といったところだろう。


 もう1つは、このセルナの代官であるオルレン・ウアラ・オウジシからの呼び出しであった。王都から近く規模も大きい町ゆえ、貴族の令息が代官職を任されているらしい。

 男がわざわざ家名まで含めて告げたのは、おそらく『ウアラ』という名を伝えるためであろう。また、代官を『公子様』と呼んだのは、嫡子であることを示す配慮だ。


 ルルテは、この男が貴族社会の作法にかなり通じていることに、わずかに驚いた。


 「で、その代官とやらが、我になんの用なのだ?」


 男は深く頭を垂れたまま答えた。


 「お、おそれながら・・・内容までは聞き及んでおりません。使いの者が宿へ参り、ただそのようにと、申し伝えられた次第にございます。」


 その声音には、王族を前にした平民らしい緊張が滲んでいた。


 「ところで、そなた。名はなんと申す?」


 ルルテが問うと、男はさらに身を低くした。


 「は、はい。恐悦至極に存じます。わたくしめは、この宿エステメルデにて高貴なお方がお泊まりの折にお世話を務めております者にございます。バラクと申します。」


 「ほう。バラクとやら。貴族の子女ではないのか。」

 「い、いえ。しがない商人の家の生まれにございます。」


 ルルテは軽く頷いた。


 「商会の名を申してみよ。」

 「ウルバナ商会にてございます。セルナと王都にて絹製品を扱わせていただいております。」


 「そうか。後で、我に収める絹衣を見繕ってくれぬか。」

 「はっ! あ、ありがたき幸せにございます!」


 バラクは頭をこすりつけんばかりに身を低くした。


 「よい。面をあげよ。良い顔をしておるな。言伝がそれだけであれば、下がれ。」

 「はっ。失礼いたします。」


 バラクは後ろ向きのまま、身を低くした姿勢を崩さずに扉へ下がり、そのまま静かに部屋を後にした。


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