旅の準備 その24 男爵として
王の言葉を聞いたガリンは、理解できないといった顔を隠しもせず、
「どうしてですか?利点しかないように思えますが・・・。」
そう問いかける。レンは、ガリンが王の決定に対していきなり直答したことに驚き、止めようとして立ち上がった。王は、レンを手で制した。
「ガリンよ。いや、ララス男爵よ・・・。」
王は、叙爵したばかりの爵位でガリンを呼んだのだった。
「・・・。」
ガリンがキョトンとして王を見る。王が静かに語り始める。
「ガリンよ。そなたは、何のためにルルテと巡察の旅にでるのだ?」
「それは、王女の元服の義務で・・・。」
「ふむ。まずそこから間違っておる。」
「・・・。」
王の言葉にガリンは言葉をなくした。最初から違うと言われたのだ。ガリンは混乱する。
「確かに、王族には元服と共に自身の治める国土を知るために、義務として巡察の旅にでなければならない。これは、そなたの言う通り義務だ。」
「はい。」
「しかし、義務と目的は必ずしも一致はしないのだ。」
「目的・・・。」
「そうだ、目的だ。」
「・・・。」
「ルルテは、将来このマレーン王国を治める女王となるだろう。そして、良い治世を心掛けねばならぬ。しかし、今のルルテはどうだ?奇しくも、先程そなたが言ったように、ルルテはこの国で生活する民のことをまるで知らないのだ。それはそなたにも言えることだな。」
「はい・・・。」
ガリンは、ただ頷くしかなかった。
「ルルテが良い女王となるためには、国の事、民の事、そして自分の事を知らねばならぬ。」
「はい。」
「ルルテは、そなたとの婚姻を望んでおる。それはきっと今のルルテにとっては正しい感情なのだろう。しかし、この先、国を知り、民を知り、己を知り、そして女王となる覚悟が出来た時はどうだろうか。ルルテは王族であるのだ。好き嫌いの感情だけで婚姻を結ぶことは出来ぬ。」
王の声は静かだったが、その奥には王としての厳しさがあった。
「もちろん、その時が来て、それでもルルテが望み、そなたがそれに見合う男なのであれば、王として喜んで祝福を贈ろう。それはルルテとそなた2人に対して、つまり個としての祝福ではないぞ。国を導く、新しい王と宰相に祝福を贈るのだ。わかるか?」
ガリンは、圧倒された。
目の前にいるのは、いつもの王でありながら、同時に国そのものでもあった。器としての王ではなく、国家の意志を背負う存在がそこにいた。
ガリンが黙っていると、王は少しだけ笑顔を浮かべ、話を続けた。
「だからこそ、そなたにはララス領を与えた。ルルテとそなたは今は相思相愛なのだろう?まあ、これはあくまでもルルテの言だが・・・。巡察を経て、見て、聞き、そして知る。そのうえで、ララス領を治めなければならないのだ。」
王の声は柔らかいが、言葉は鋭かった。
「よいか。義務ではない。これはそなたたちが、自身の未来を勝ち取るための戦いなのだ。単に機会を与えられただけなのだ。義務などと言って、ただ受け入れるだけのルルテ、そなたには何もやれん。間違えるな、若き護士よ。生きることは戦いなのだ。」
王の表情は柔和であったが、語られた内容は厳しいものだった。
ガリンは、ふとあることに気付く。
「王よ。もし、ルルテが王女の器ではなかったら・・・。」
王は少し考え込むと、
「エランにも、優秀な息子がおるな。必要なのは、より国を豊かにし、守ることができる王なのだ。」
告げるのだった。その目には、既に笑みはなかった。
ガリンは、自分の考えの甘さをようやく理解した。
ただ流されるように王女に付き従い、ただ守れば良いと考えていた。
ララス領の事もそうだ。単に預かるだけで、統治は誰かがやってくれるのだろうと勝手に考えていた。
まったく違ったのだ。
王は、あの能力石解放の時の『互いの血をもって宣誓』──あれは遊びではないと言っているのだ。
ある意味それは、仮にではあったとしても本気でガリンをルルテの『片翼』として考えているということなのだ。
王にとっては、ガリンとルルテはもう完全に運命共同体なのだ。
『これをルルテは知っていたのだろうか。』
ふと、そんな疑問が頭をよぎる。
いや、ルルテは王族だ。小さい時から帝王学を学んでいる。知らないわけがない。ただ、きっと国を背負う重さは理解していないに違いない。
既にガリンは、崖っぷちであったのだ。
ガリンが椅子から立ち上がり、膝をついた。
「陛下。」
「なんだ?直答を許す。」
表情は先程と同じで、笑みこそないが穏やかなものだった。しかし、威圧感がまるで違う。
「は。サラの助力を得、手始めにまずララス領を竜族との初めての講和を結ぶ地としてみせます。また、ルルテは、この偉業を為すことによって、必ずや王としての器を1つ手にいれることでしょう。かの者の同行を許可して頂きたい。」
頭を垂れるのだった。
誤字脱字、語尾の修正。2026.3.20




