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マレーン・サーガ 祝1.8万PV達成  作者: いのそらん
第14章 旅の準備
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旅の準備 その22 場違い


 酒場の外では、ガリンとルルテが、迎えに来ていた馬車に乗り込もうとしていた。

 馬車で迎えに来ていたのは、女官のジレと衛士のストレバウスだった。朝の冷たい空気の中、2人は馬車の脇に立ち、周囲を気にしながらガリン達を待っていた。


 酒場の外に出た瞬間、自分たちに注目する周囲の住民や、道行く人々の好奇の視線とざわめきに、ガリンは、これも常識外れの行動だったと気付く。

 ジレが用意した馬車は、王家の紋章がついた、見るからに豪華な2頭立ての馬車だったのだ。朝日を受けて金の縁取りがぎらりと光り、黒い筐体は磨き上げられた鏡のように周囲の景色を映している。

 4人がしっかりと乗れる馬車で、中は赤い布で統一された、ふわふわで軟らかいソファのあるルルテ専用の馬車だ。扉が開くたび、わずかに香油の香りが漂い、貴族の馬車であることを否応なく主張していた。


 ジレに連絡するときに、せめて兵舎から馬車を借りるなどの助言をするべきだったのだ。

 しかし、ガリンも気付かなかったし、頼まれたジレも気付かない。同行してきたストレバウスも、これで良しとしたのだ。酒場に来るまでの外郭市街の市民と酒場の客たちを実際に自分の眼で見たガリンなら、今は分かる。

 これは、ここには似つかわしくない馬車なのだ。しかも王家の紋章がしっかりと描かれている。

 もう、この馬車に乗るのが王族関係者だと宣伝しているようなものである。周囲の視線が、驚きと畏れと好奇心で入り混じっているのが、肌で分かるほどだった。


 ここは、マレーン王国の王都だ。だからこそ、畏敬のまなざしで見てくれる国民が多い。しかし、これが外ならどうだろうか。きっと盗賊などの良い標的になるに違いない。

 ここでもガリンは、改めて学ぶことの大切さを身に染みて感じたのだった。


 来てしまったものはしょうがない。既に目立っているのだ。

 馬車の周りに集まった野次馬たちに驚いて、きょろきょろと周囲を見回しているジレ、次々と集まってくる人だかりに警戒して剣に手を掛けているストレバウスの2人。2人の緊張が、逆に群衆のざわめきを増幅させている。

 ガリンは、手早く意伝石で、


『この場を出来るだけ早く移動するように』


と、2人に伝え、ルルテの背中を多少強引に押して馬車に乗り込むのだった。


 ジレとルルテ、そして自らも馬車の中のソファに腰を下ろすと、ガリンはすぐに指輪を撫でて防御の結界を展開し、ストレバウスに馬車を出すように指示をだした。

 結界が張られた瞬間、外の喧騒が少しだけ遠のき、赤い内装の空間に静けさが戻る。


 ストレバウスは、周囲の住民らに馬車が動き出すことを朗々とした声で告げると、馬を走らせ始めた。ストレバウスの声に、何事かと更に人が増えたのだが、馬車はとにかく城に向かって移動を始めた。

 そもそも、第2城郭市街と比べて外郭市街は入り組んでいる。

 攻め込まれたときに、まっすぐ城に攻め入れないようにとの工夫で、多くの城郭都市は同様の方法で街が造られている。だからこそ、馬車も思ったより速度を出すことができない。

 狭い路地を曲がるたび、馬の蹄が石畳を叩く音が反響し、車体がきしんだ。

 正直、これは馬車の問題云々ではなく、ガリンが呼ぶべきものは人力車程度で良かったのだ。

 期せずして、巡察の旅の予行練習となる市街の散策となってしまった。


 それでも、なんとか外郭市街を抜けて第2城郭市街に入ると、道は賽の目のようにまっすぐなものに変わり、馬車も速度を出せるようになる。

 建物の高さも揃い、整然とした街並みが続く。馬車の揺れも穏やかになり、窓の外の景色が滑らかに流れていく。

 程なくして、ガリン達は内堀の跳ね橋を渡り、城門へとたどり着いたのであった。


 城内を通って屋敷に戻ると、色々あって疲れ果てたルルテは、ジレに連れられてそのまま光浴設備に入り、身体調整を始めた。光浴室の扉が閉まる直前、ルルテの肩が小さく上下しているのが見え、相当疲れたのだと分かる。


 一方ガリンは、レイレイの言葉に従い鱗を持って城下町に降りたことやサラの事などを、意伝石を使ってレンに伝え、後日、サラの同行に関して王とレンに相談したい旨を伝えたのだった。


 ガリンがレンに酒場でのことを伝えた後、レンから連絡がきたのは翌日のことであった。


 レンからは、ルルテを連れずに城内訓練場の先の王の執務室にて相談を受ける旨の連絡を受けたのだ。

 朝一番で執務室にくるように伝えられたため、屋敷でルルテ達と朝食をとったガリンは、そのまますぐに執務室に向かうこととなった。

 ルルテが、自分からも父に話をすると言って、かなりしつこく同行を申し出ていたのだが、


『来るのであれば、そろそろ新年であるので、そのまま里帰りをするが良い』


 という王からの要望を伝えると、急に、


「我は、今年もこの屋敷で新年を迎える予定だ。」


 と言って、自ら同行を辞退したのだ。

 その声には、ほんの少しだけ気まずさと照れが混じっていた。


 『新年』という言葉を聞いて、ガリンは、昨年のルルテとジレのいたずらを思いだして、もう一年経ったのだな、と笑みを浮かべた。

 あの時の光景が脳裏に蘇り、思わず肩が揺れる。


 ガリンは、ルルテを振り切ると、早足で訓練場脇を通り過ぎ、執務室に到着する。

 城内の訓練場を通り過ぎた時、かなりの早朝にも関わらず、訓練場で汗を流すリアとナタルを横目に捉え、もう一度笑みを浮かべたのだった。朝の冷気の中、2人の剣が交わる音が澄んだ空気に響き、城の一日の始まりを告げているようだった。


誤字脱字、語尾の修正。脱出劇のような話だったので、少しだけ馬車が走る様子を情景描写として追加。

また、急に、翌日になる話なので、イメージしやすいように朝の1日の始まりという雰囲気の修辞を追加。

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