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マレーン・サーガ 祝1.8万PV達成  作者: いのそらん
第14章 旅の準備
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旅の準備 その21 カカノーゼとサラ


 1階に戻った時にジレから届いた連絡は、馬車は既に酒場のすぐそこまで来ており、間もなく到着するというものだった。


 ガリンは1階に戻ると、まず酒場の奥にいるカカノーゼに軽く頭を下げた。その後、先程ガリン達が2階に向かった時と同じ場所で、エールを飲みながら何かをつまんでいたリアとナタルにも順に静かに頭をさげ、簡単なお礼とこれから屋敷に戻ること、今日の護衛の代金は後日兵舎に届けることを伝えた。その後、酒場を見渡し、ルルテを連れ立って酒場の外に出たのだった。


 リアは、ガリンに声を掛けられた時に、


 「護衛の報酬なん・・・」


 と口にしかけたが、ガリンが振り返りもせずに外に出てしまったため、そのまま言葉を飲み込んだのだ。2人が外に出るのを確認すると、サラはその足でカカノーゼの元に向かっていき、サラが近づくとカカノーゼが大きな身体で振り返った。


 「終わったのか。」

 「ああ、終わったさね。当たりだよ。」


 「そうかい。」


 カカノーゼは、ただ頷いた。


 「旦那。世話になったさね。」

 「よせやい。こそばゆいぜ。」


 「いや、戦場で拾ってもらってから、もう20の年を数えただろうさ。」

 「ふ。そうだな。あの頃はお互い若かったって、おめぇはまったく変わってねぇか・・・。」


 カカノーゼが、エールを一杯ぐっとあおる。サラも、丁度空いていたカカノーゼの隣に腰を下ろした。今度はサラが先に口を開く。


 「旦那。うちは、おそらくあの全身真っ白の晶角士たちについていくことになるさね。」

 「そうか。見せたのか?」


 「見せたさ。」

 「で?」


 「美しいと・・・。」

 「へっ。そうかい。」


 カカノーゼが笑みを浮かべる。


 「・・・。」

 「良かったな。」


 「ああ。本当に世話になったさね。」


 サラが、もう一度謝意を言葉にした。


 「いつ出るんだ?」

 「知らせを送るってことさね。まあ、話によると春には王都を出ることになりそうさね・・・。」


 サラが言葉に詰まる。


 カカノーゼに拾われた頃のサラは、辺境から出てきたばかりで、常識を知らない小娘同然だった。年齢だけを言えば当時のカカノーゼよりもずっと上だったが、なにしろ閉ざされた辺境から外に出たことがなかったのだ。しかも巫女は普段は竜族に仕えていて、外の商人などともほとんど顔を合わせることさえなかったのだ。それがある日、急に旅に出るのだ。常識知らずでもしょうがないだろう。


 ラミア族は、人化しても強い。筋力もそうだが、元力石を使わずとも相手に精神系の効果を及ぼす術を使うことができる。食べる手段を失ったサラは、傭兵に身をやつしながら戦場を転々としていたのだ。『竜の鱗を持つ存在』の姿も年齢もわからない。ただ、食べるため、そして『竜族の末裔なら強いに違いない』といった根拠のない考えに従って傭兵家業を続けていたのだ。


 しかし、それでも限界はある。人化の術は一定期間が過ぎると再度ラミアの姿に戻り、ある程度の意思力を蓄積する必要がでてくる。そのため、どこの傭兵団に属すこともできず、ただ単身で敵と戦い、その戦果で少しばかりの報奨をもらって生計をたてていたのだ。


 そんな時に、偶然ラミアの姿をカカノーゼに見られてしまい、その時事情を聴いてくれたカカノーゼが彼女をかくまい、そのまま傭兵団を立ち上げたのだ。カカノーゼは、もともと自身の傭兵団をつくるつもりではあったのだが、サラに出会い、実際に傭兵団を立ち上げることを決意したのだ。


 当時からカカノーゼはひときわ大きな身体を持ち、遺跡で見つけた2本の銅の斧を振るう強い戦士だった。そして、サラも人外の力を持つ強い傭兵だ。強い傭兵が2人いれば、自然と他の傭兵たちが集まってくる。そうして出来上がったのが、今のカカノーゼの傭兵団なのだ。傭兵団の名前の『虎蛇の牙』も、虎がカカノーゼで蛇がサラ、2人から名付けたものだった。今では、この話を知っている古参の傭兵も減ったが、もともとは2人から始まった傭兵団だったのだ。


 ただ、サラは長命種でほとんど歳を取らない。だからこそ、一度引退をして、娘が再度入団といった演技までして、今に至るのだ。今では、カカノーゼも今いる団員も、傭兵団のことを単に『カカノーゼの傭兵団』と呼ぶことが多くなり、最近では『虎蛇の牙』という名前もほとんど使わなくなっていた。


 サラとカカノーゼは、しばらく無言で酒を飲んでいたが、


 「まだ、王都を出るまでには時間があるな。それまでは、楽しくやろうじゃないか。」


 カカノーゼがサラの背中を軽く叩く。サラも、


 「カイル。そうさね・・・。」


 と頷いた。


 久しぶりに『カイル』と幼名を呼ばれたカカノーゼは、肩眉を少し上げたが、また2人とも黙って酒を飲み始めるのだった。その2人の心の中には、おそらく誰もわからない万感の思いがあったのかもしれないが、それも酒場の喧騒に溶けていってしまった。


 リアは、サラがカカノーゼの隣で落ち着いたのを見ると、


 「あの護士とサラの話もうまくいったみたいね。」

 「何が?2人なら上から降りてくるなり帰ってしまったじゃないか。」


 ナタルが首を傾げるが、リアの目は酒場の奥で無言で酒を飲むカカノーゼとサラに釘付けになっていた。2人の雰囲気が、とても寂しいもののように感じたからだ。ただ、同時に、2人からは全てを受け入れている優しさもあふれ出ていたのだ。


 『もしかしたら、いつも飄々としたカカノーゼが、あれほど性急にガリンに攻撃をしかけたのは、この結末を知っていて、そこにはもしかしたら嫉妬も・・・。』


 そんな考えが頭をよぎったのだった。しかし、カカノーゼとサラは親子ほども歳が離れている。恋愛対象とは言いにくいだろう。リアはそんな風に自分の考えを改めるしかない。リアは、サラが長命種であり、カカノーゼと同じ時を生きることが出来ないという事情を知らないのだから、こう考えてもしょうがない。ただ、もし知っていたとしたら、ガリン達をサラに紹介したのだろうか。それは、今となってはリアにも分からなかった・・・。


 リアは、


 「ナタル。今日の護衛の代金も、護士様がくれるらしいわよ。」

 「ああ、そう言ってたな。」


 ナタルが急に気を良くして答える。


 ここで、2人の間にふっと明るい空気が生まれた。

 酒場のざわめきに混じって、リアとナタルの笑い声が弾ける。

 リアは杯を指先でくるりと回し、ナタルは皿を引き寄せながら目を輝かせた。

 その仕草には、今日一日の緊張がようやく解けた安堵と、ささやかな贅沢への期待が滲んでいた。


 「貴族だから、きっと結構くれるわよ?」


 リアがナタルにウインクする。ナタルも手を叩くと、


 「じゃあ、今日はがっつり喰うか!」


 笑顔を浮かべたのだった。リアは、もう一度だけカカノーゼとサラを横目で見て、


 「私も飲むわよ!」


 そう言って、机の上の葡萄酒を一気に流し込んだのだった。


誤字脱字の修正。語尾の調整。リアとナタルが少し安堵す記述を追加。2026.3.16

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