旅の準備 その20 巡察の旅の6人目?
サラが衣服と装備を纏うのを確認すると、ガリンはルルテが横になっているソファに向かい、そっと指輪を撫でてルルテを目覚めさせる。
ルルテは薄っすらと目をあけ、軽く首を回して周囲を見渡すのだった。
「ああ、我は寝てしまったのか。すまないことをしたな。」
「いいえ。慣れない酒場の雰囲気と、攻撃を向けられたことで少し疲れていたのですね。」
ガリンが優しく声を掛ける。
ルルテは気だるそうに身体を起こすと、サラに視線を向け、
「この者はどうだったのだ?我々が探していた者だったのか?」
ガリンは、ルルテの問いに答えるため、こちらからの状況の説明とサラの経歴や身の上話を、サラがラミア族である部分だけを除いて、かいつまんで説明した。そして話の最後に、
「それで、ルルテ。これから話が核心に至るところでしたので、良く寝ていたので申し訳ないとは思ったのですが、起こしたのです。」
と、言葉を加えた。
サラが、そのガリンのありように目を細める。
「そうか。それは良いのだ。我も、核心に触れる部分を聞き逃すわけにはいかないのでな。よくぞ起こしてくれた。感謝するぞ。」
ガリンはサラの視線には答えず、また顔色も変えず、ルルテに軽く頷くのだった。こういうときのガリンの無表情は板についている。
「それで、ルルテ。相談なのですが、このサラという傭兵、かなり王都の外の事情にも詳しいようです。また、彼女も実は身体の一部に鱗を持っており、仲間を探しているとのことなのです。なので、巡察の旅に同行してもらえないか、と考えております。」
「なんと・・・。この者もレイレイと同じく鱗を持っておるのか。」
「はい。先程確認しました。」
ルルテが興味津々というように目を輝かせる。
ガリンがサラに頷くと、サラがルルテに近づいて腰の鱗を見せた。
「なるほど。確かに形は違うが、レイレイの鱗に似ておるな・・・。」
「はい。似ていますね。」
ルルテはガリンの同意を得ると、サラに顔を向けて、
「それで、サラとやら。おぬしもキメラなのか?」
本来であれば、かなりぶしつけな質問ではあるのだが、サラは、
「うちらは、自分たちのことをキ・メ・ラ・とは呼ばないさね。獣人と呼んでいるさ。」
特に表情を変えることもなく、淡々と返答をするのだった。
「ルルテ、人にキメラという呼称はさすがに失礼ですよ。」
さすがにガリンが窘める。
「そうか。サラ、すまなかったな。我は、おぬしのような獣人だったか、会ったことがないのだ。許せ。」
ルルテが素直に謝罪をした。
「いいさね。特に鱗をもつ獣人は、ほとんど表には出てこないだろうからね。ただ、人前でキメラと呼ぶのはやめて欲しいさね。」
サラが軽いお願いといった風に言うと、
「うむ。わかった。それでおぬしはなぜ、鱗を持つ者を探しているのだ?」
ルルテが尋ね返す。
「ああ。うちらみたいのは迫害されることも多いのさ。それで常に同胞を探しているってわけさ。」
「ふむ。それでレイレイか。」
ルルテが考え込むように目を瞑った。
「ルルテ。爬虫類系の獣人は、感覚が鋭く仲間を認識できるそうです。特にレイレイは竜人ですので、他の仲間と比べると格段にその波長が強いらしいのです。だから、サラは新しい同胞が生まれたことを察知して、探していたみたいです。また、竜は彼ら獣人の中では敬うべき存在であり、見つけた場合は保護しているのだそうですよ。」
「なるほど。それで先程の言葉遣いだったのか。そういえば言葉がぞんざいなものに戻っておるな?」
「はい、私がお願いしました。確かに私はレイレイの養父でありますが、そんな畏まられる存在ではありませんしね。」
「ガリン、おぬしも既に領を持つ貴族なのだから、場合によっては敬われる存在ではあるのだぞ。」
ルルテが非難がましい口調で窘めると、ガリンは苦笑いを浮かべるのだった。
「とにかく、わかった。確かにレイレイには獣人としての心得などを教える者も必要だろうな。それに、この者は強いのであろう?」
ルルテがガリンに問う。
ガリンが、
「傭兵団では、団長であるあの大男に次ぐ実力だそうです。」
そう伝えると、ルルテは、
「それは、頼もしいな。ちょっとだけ、ちょっとだけだが、我の巡察のメンバーが少なく不安でもあったのだ。明日にでもさっそくお父様に、サラの我の傭兵団への加入の許可をもらうとしよう。」
ルルテが何度も頷いた。
ルルテが興奮したように立ち上がると、ガリンがサラに向かって、
「王女も、サラの同行を望んでいるようです。まずは許可をもらい、その後、知らせを送りますので、それで良いですか?」
最終的な確認をしたのだ。
サラは挑戦的な笑みを浮かべると、
「わかったさね。」
と、自分の腰を叩いた。
旅についての詳しい話は、実際に屋敷に招いたときにすることとして、まずサラには、ガリンからの連絡を待ってもらうことにしたのだった。
その話が終わると、ガリンはルルテに、
「そろそろ、ジレがこの酒場に馬車を回してくれているはずです。時間も遅いですし屋敷に戻りましょう。サラの事に関しては、明日まずレンに相談して、その後で王に許可をもらうということにしましょう。」
と提案し、その後、サラに1階に戻ることを告げた。
サラは、貴族たちから見れば単なる傭兵である。普通に考えれば王女たちに同行することは難しいだろう。ただ、この旅は特殊である。国家間の情勢もそうだが、次代の王が少人数で巡察に出るなど、普通に考えれば危険極まりない行為である。だからこそ、普通ではないことも許可される可能性があるのだ。
王やレンには、サラがラミア族であることも伝える予定である。竜族に繋がる人物であり、もしかしたら、長い間敵対してきた竜族と手をとる未来すらあり得るのだ。そして、レイレイがその懸け橋になる可能性さえ出てきたからだ。
仮に、竜族と和解できるのであれば、その他の鱗をもつ辺境の民もマレーン文化圏に組み込むことができるかもしれない。これは、隣人の脅威が減るだけではなく、他の文化圏への抑止力にもなるだろう。
ガリンは、これからの可能性を理解さえしてもらえれば、サラを同行者とできる可能性は高いと考えていた。
それに、現実的な問題もある・・・。
今回、城下に降りて気付いたことがあったのだ。それは、ガリンももちろんそうだが、おそらく他の旅の同行者も市井における一般常識に疎い可能性が高いのだ。
ルルテは、王宮以外はほとんど知らないで育っているから論外だろう。
ガリンとルルテが城下に降りるという話をした時にも、セルとジレは何も言わなかった。ストレバスもそうだ。基本、元は貴族の子女か、貴族に通じる者たちなのだ。そうでなければ、王女付きの女官や衛士にはなれないだろう。
彼女たちも、第2城郭市街と外郭市街のことをよく知らないのだ。
正直、外郭市街を歩いた時に、リアやナタルが居なかったら酒場に辿りつくことすらできなかっただろう。恥ずかしい話だが、現実問題として、市井に詳しく、戦力としても数えることができるそんな旅の仲間が必要なのだ。先程の竜族との関りの件を考えないとしても、サラは条件を満たしているのだ。
またガリンは、酒場の2階でサラと話をしている時、ずっと極小サイズの『誠実』の結界を張っていたのだ。併せて7大文化圏会議の際に、イタバンザ伯爵に渡した『映像を記録できる記録石』も使用していた。サラがあの場で話したことには嘘はなかった。もしかしたら、多少誇張したり、隠していることがあるかもしれないが、我々に敵意がないことは間違いない。そして、本当に竜の鱗を持つ存在を探しており、辺境の竜族、その民が問題を抱えていることも嘘ではないのだろう。
『誠実の結界』『記録石』の2つの証拠があれば、確実に説得できるし、サラの我々に対する安全性と身元を保証する代わりぐらいにはなる筈である。
2人が、サラを先頭に2階の部屋から階段を下りて1階に戻ると、意伝石を通してジレからちょうど連絡が入ったのだった。
誤字脱字、語尾の修正。2026.3.16




