旅の準備 その17 尊父!?
そう答えたルルテには、先ほどまでの酒場の雰囲気と、カカノーゼの威圧に身を竦めていた様子は微塵も感じられなかった。実際に威圧されていた時には、ガリンが精神を穏やかにする、以前闘技大会で恐慌状態に陥った時にも使用した結界によって守られていたわけだが、今はそうではない。さすがの適応力である。
「娘?」
サラが『何言ってるんだ?このガキ』という顔で、護士を見る。ガリンは、眉間に皺を寄せて、軽く頭を下げた。
「まあ、いいさね。」
サラも肩を竦めて軽く流す。
「じゃあ、その鱗見せておくれよ。」
サラが無遠慮に手を伸ばした。ガリンがルルテに頷き、ルルテも頷き返すと、ガリンはレイレイの鱗でつくった首留めを外し、サラに手渡した。
サラが目を皿のようにして鱗を凝視する。しばらくはただ見ているだけだったが、急に引っ張ってみたり、匂いを嗅いだり、最終的にはいきなり舐め始めたのだ。
「な?」
ルルテが小さく声をあげる。
「黙ってな。」
サラが声で制止する。
そして、鱗をどこからか取り出した布で綺麗に拭くと、満足したように頷いた。サラは急に椅子から立ち上がり、ガリンの前まで歩いて行くと、
「尊夫殿」
畏まり膝をついた。そして、額をこすりつけるようにして頭を下げたのだった。
今度は、リアとナタル、ルルテの3人が、
「「「え?」」」
と声をあげた。頭を下げられた当の本人は、少しだけ困った表情を浮かべ、
「事情を説明してくれますか?」
とサラに声をかけただけだった。ガリンは、鱗だけで何故自分が遺伝子提供者であることが分かったのかを気にしていたのだが、サラはもちろんそんなことは分からない。サラは顔を上げると、畏まった口調のまま、
「この鱗の主は、間違いなく私が探していたお方。そして、貴方様はその父君にてあらせられる。頭を下げるのは当たり前のこと。先程までの無礼、平にご容赦いただきたく存じます。」
サラの堅い、そして朗々とした声に、酒を飲む団員が徐々に視線をこちらに向け始める。その時、
「おい、サラ。なにか事情があるなら、2階の部屋を使いな。酒がまずくなっちまうだろ!」
酒場の奥から、カカノーゼが怒鳴り声をあげた。サラは、
「わかったよ。」
つっけんどんにカカノーゼに怒鳴り返すと、
「じゃあ、尊父殿、2階によろしいでしょうか?」
丁寧に頭を下げたのだった。ガリンが立ち上がると、併せてリアとナタルも立ち上がろうとする。それを見てサラが、
「坊や、お嬢ちゃん。個人的な話さね。ここで待っていてくれさね。」
制止した。リアは、
「でも・・・。」
とガリンに許可を求めると、
「先程の結界を見たと思います。心配は無用ですよ。」
とガリン。そして遅れて、ルルテもガリンについていこうと席を立とうとする。
「お・・・。」
サラはルルテにも何かを言いかけたが、ガリンが、
「いきますよ。」
とルルテに声を掛けたため、サラは言葉を飲み込むのだった。サラがガリンとルルテを連れ立って2階に上がるのをリアとナタルが見送る中、酒場の喧騒はまたすぐに元に戻っていった。
「おい、リア。」
「なによ?」
ナタルが2階を見ながら、リアに声を掛ける。
「確か、ここの2階って・・・あれだよな?ほら、商売女が・・・。」
ナタルがちょっと口ごもって赤くなる。
「まあ、そうね。だから?」
「いや、だって、サラだぜ?」
リアの目が細くなり、胸の前で拳を握り、その拳に逆の手を被せた。
「いや、何怒ってるんだよ?」
「あなたが、今想像した、破廉恥なことに怒ってるのよ?」
「だって、お嬢ちゃんだって、あの護士の婚約者なんだろ?」
ナタルが両手を目の前で重なるように交互に振りながらリアに言い訳をする。
「だから?」
「それが、連れだって2階に・・・。」
リアの拳が、ナタルの手を躱して、ナタルの頭に振り下ろされた。
「いててて・・・。何すんだよ?」
ナタルが目を白黒させながら文句を言う。
「あなたは馬鹿だと思ってたけど、やっぱり馬鹿ね。あのサラの言葉遣い聞かなかったの?」
ナタルが目をぱちくりとさせた。
「ああ、お嬢ちゃんがお姫様で、護士が貴族ってわかったからじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ・・・。」
リアが頭を抱えるのだった。そんな漫才のような2人の会話がされる中、酒場の一番奥に座っていたカカノーゼだけは、2階に上がっていき部屋の中に消えた3人、正確には1人を厳しい顔つきでずっと見つめていたのだった。
誤字脱字の修正。一部、文脈がおかしい部分を修正。語尾の重複の修正。2026.3.14




