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マレーン・サーガ 祝1.8万PV達成  作者: いのそらん
第14章 旅の準備
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旅の準備 その14 初めての酒場


 カカノーゼが率いる傭兵団のメンバーがいつも飲んでいる酒場、イタラの酒場は、今日も多くの客でごった返していた。少なくともしんみり酒を飲むといった雰囲気は皆無だった。


 リアとナタルが酒場のウエスタンドアを開けると、いっきにアルコールと脂ぎった料理の匂いが漂ってくる。

 平民上がりの多い軍角士であるリアとナタルは、ここまでではないが似たような店で飲食をしたこともある。特にここ最近、カカノーゼたちと関わるようになってからは何度かこの酒場まで足を運んでいたこともあり、すっかり慣れていた。しかしガリンとルルテは違う。

 扉を開け酒場に足を踏み入れた途端、驚きで言葉を失うのだった。


 まず、飲んでいる客の雰囲気が、いつも周りにいる人達とは全く違う。

 誰もが、この冬にシャツ一枚で飲み、大声で笑い、怒鳴るような声で会話を楽しんでいる。

 また、床はこぼれた酒でぬめり、誰かの笑い声と誰かの怒号が区別もつかないほど混ざり合っていたのだ。


 それに、ほとんど女性がいない。

 給仕をしている女性は何人かいたが、身体のラインを強調したぴったりとした服に短いスカートを履き、ちゃきちゃきと客をさばいている。中には客からお金を受け取って2Fに上がっていく給仕もいた。


「こ、これは・・・。」


 ガリンが驚き声を詰まらせた。


 リアは、この酒場に着く前に、もう少し護士とお姫様にはどんな酒場であるかを伝えたいとは思っていた。しかし行く先々で絡まれていく2人を引き戻すのに精一杯で、説明する時間が取れなかったのだ。

 城内の訓練場や闘技場での惨劇の時には、あれだけ理知的で全てを見通すような万能感を漂わせていたガリンが、まるで成す術がない子供のように焦り、ルルテを守ることだけに必死になっている。その様子を見て、リアは『こうなるだろう』という悪い意味での自身の予想が当たってしまい、苦笑いを浮かべた。

 しかし、路上で客引きに捕まるよりは、客の多くがカカノーゼの傭兵団に所属している傭兵であり、見知った人間がいるこの酒場の方がトラブルも起こりにくいと判断し、とにかく急いで案内してきたのだ。実際、その判断は正しかったのだが、やはりこうなってしまっただけだ。


 護士の方はまだいい。焦りながらも周囲を警戒し、自分を保っている。しかし、お姫様の方は雰囲気に圧倒され、もう半泣き状態であった。

 とにかく、酒場の入り口で立ちすくんでいるのはまずい。リアはナタルと視線で頷きあい、2人の背中を押すようにして、一番手前の奥の席に座らせた。


 リアは口をあけて唖然としているルルテを見て、ガリンに声を掛けた。


「お嬢ちゃん、大丈夫かしら?」


 ガリンはその声を聴いて、ようやくルルテの状態に気付いたのか、指輪の1つを外しルルテの左手の薬指に填めた。そのまま元力石の表面を軽くたたき、小さな声で呪を唱える。すると、呆けて焦点が合っていなかったルルテの目に光が戻り、ようやく周囲を見渡せるようになったのか、ガリンに力なく微笑んだ。


「ルルテ、大丈夫ですか?」


 ルルテは名前を呼ばれると、軽く深呼吸をした。


「迷惑をかけたようだな。これは、すごいな。予想すらしていなかった光景だ。これが市井というものなのか。」

「私も初めてですのでわかりませんが、なんとも騒がしいところですね。しかも酒精の匂いがきつくて、不快ですね。」


 まったく周囲の状況を考えないガリンの発言に、リアとナタルは顔を見合わせる。そもそも白い綿毛の金縁コートを着ているだけで異様に目立っているのだ。

 リアとナタルが傍にいるからこそ誰も絡んでこないが、非常に場違いなのは間違いない。

絡んでこない、というのは正確ではない。絡んでこないだけで、皆注目はしているのだ。そんな中で客たちが、自分たちが最高の娯楽に興じている店を『不快』とはっきり言われれば、世間知らずもここまでくると逆転して呆れるほどである。


 まあ、それでも客たちがいちゃもんを付けてこないのは、リアとナタルが連れている客が団長であるカカノーゼの客だとわかっているからである。

 もし仮に誰かが絡んでくるようであれば、護衛をしている以上、リアたちも簡単には絡ませるようなへまはしないつもりだったが、何せ相手は数が多い。正直、簡単にはいかないだろう。


 そんな中、リアたちが待っていた人物が現れた。


「おいおい、不快とはひどいことを言ってくれるな。」


 大男はリアとナタルを押し退け、その言葉を口にしたガリンを身体をねじりながら覗き込んだ。


「カイル(カカノーゼの幼名)、悪いな。ちょっと訳アリの連れなんだ。」


 カイルと呼ばれた巨漢は手を広げ、


「そんなの見ればわかるだろ、なんだその白いのは?羊の知り合いか?はっはん」


 あざけるように笑う。


「カカノーゼ、ごめんなさい。事情があってね。大目に見てくれる?」


 リアも軽く頭を下げた。


「リア、ナタル。おめぇらは知った仲だ。特になんも思っちゃいねぇよ。頭下げるなら、無礼っていうんだっけか、その発言をしたそのあんちゃんじゃないのか?ここは貴族様の威光が通用するような上等な店じゃなぇんだぜ。」


 そう言ってガリンの頭に手を伸ばす。

 そして、その瞬間・・・。


 ガリンの周囲に光のような膜が現れ、そこから稲妻のような光が走り、伸ばしたカカノーゼの手を打ち付けた。


「・・・・!?」


 カカノーゼがすごいスピードで手を引くと、もう片方の手を握りしめガリンに殴りかかる。

すごい勢いだ。牽制の拳ではない。


「な、カイル。やめ・・・。」


 ナタルが手を伸ばすが間に合わない。

 カカノーゼの拳がガリンに触れようとした瞬間、先程と同じ稲妻が発光し、カカノーゼがのけぞり、そのまま膝をついた。


「てめぇっ!」


 酒場の空気が一瞬で凍りつき、誰もが息を呑んだまま動きを止めた。


誤字脱字の修正。語尾の修正。酒場の条件を1文追加。2026.3.11

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