旅の準備 その13 外郭市街
リアとナタルの言葉を聞いて、ガリンがルルテに確認する。
「そうですか。ルルテ、どうしますか?」
「そうだな。どちらにしても、鱗を持ったサラという者は気になるな。わざわざこの者達をもう一度呼び出して再度赴くのも、余計に目立つやもしれん。そなたが良ければ、我は従うぞ。そもそも我は、そなたがいれば安心だと考えておるのだ。」
リアは言葉には出さなかったが、内心かなり驚いていた。
王族が、身分の下の者に従うとはっきり口にしたのだ。普通ならまずあり得ない。
しかし、それがガリンとルルテ、この2人の関係なのだ。
ルルテ本人は、自分たちをすでに夫婦であるかのように認識しているのは間違いない。そして護士の方は理解していないようだが、実際にはそのように振舞っている。
『もしかすると、もしかする。』
それが、この時のリアの素直な印象だった。
そして、この2人は、早ければ1年ちょっとで自分達が直接仕え、剣を預ける相手になるのだ。この感覚は大切だ。リアはナタルと共に本気で将軍を目指している。だからこそ、この2人がもしリアの予想通りであれば、これは奇縁だ。
リアがそんなことに思案を巡らせている間に、ルルテはガリンに視線を送り、答えを促す。
「わかりました。ルルテのことは私が必ずお守りします。2人に護衛して頂きながら案内をしてもらい、そのサラという者に会いに行きましょう。どちらにしても、私たちは鱗が導く者を探さねばならないのですから。」
「うむ。では、ササレリアシータと他1名。頼んだぞ。」
ルルテの言葉に、リアが手を胸にあて、
「畏まりました」
と頭を下げて王命を受領した。
ナタルは『他1名・・・』とぼやきながらも、リアに倣って頭を下げた。
リアは、特に異論がないのであれば、このまますぐに、おそらくサラたちが今日も飲んでいるだろう場末の酒場に2人を案内することを伝えた。
ガリンは『酒場』という言葉に多少難色を示したが、ルルテが隣で『早くしろ』と無言の圧力を掛けていたこともあり、リアの提案を受け入れた。
酒場に向かうためには、まず今4人がいる第2城郭市街から外郭市街に移動しなければならない。
第2城郭市街から外郭市街につながる門は全部で5つあり、緊急時以外は常に開門されている。
ガリンもルルテも王都の外に出たことがまったくないわけではないのだが、普段は風力車や馬車で移動しているため、開門作業がない第2城郭市街から外郭市街への移動は、意識したことすらなかった。
マレーン文明における移動手段は、動物騎乗、昆虫騎乗、風力車があり、貨車を引く動力としても動物、昆虫、風が利用されている。
騎乗したり貨車を引いたりする動物としては、もっとも馬が多く使われていた。騎乗用として次に多いのが昆虫である。騎乗用として利用されている昆虫は主に蟻が中心で、貨車を引く昆虫として多いのが蟻と甲虫(団子虫)だった。
馬は人の命令を理解し、騎乗用としては元力石の助けを借りなくても指示伝達が可能なため人気が高い。
逆に昆虫は人の命令を理解して動くことがないため、対象の昆虫の頭部に装着した元力石により、意思を本能部分に直接働かせて行動を制御する形となっていた。
ウェンザの文化圏が護衛獣として使っている剣歯虎のように、従魔と意思疎通できる技術は現在のマレーン王国にはなかったため、昆虫に下せる命令はかなり限定的だった。
風力車は、車に帆を張り、風力発生の元力石で風を当てて移動する仕組みである。制御は人の手で、元力石から発生する風力を帆に当てる角度や強弱で行う。水上移動用の風力船も同じ原理で移動が可能だった。
ガリンがレンと王都の外に出たときは、すべて馬車であった。基本、貴族や国に仕える者は馬を使い、市井の民は昆虫を使う傾向が強いようだった。
門を抜け外郭市街に入ると、初めて徒歩で外郭市街に入ったガリンとルルテは、驚いたように周囲を見渡した。
落ちついた雰囲気のある第2城郭市街とは違い、明らかに騒然としていたのだ。
第2城郭市街にある各商店や飲食店などは、そのほとんどが石造りのしっかりとした建物で営まれていたのに対し、外郭市街に入った途端にその様相が変わった。
外郭市街では、幌を張った露店が雑然と並び、飲食店であっても外に椅子と机を並べている店が多かった。
また、人々は大声で声を掛けあい、店の店員らしき者は道行く人に声をかけて商品を売りつけようと声を張り上げていた。
初めてそれらを目にしたガリンとルルテは、驚きで目を丸くした。
そして固まっている2人を見た時、リアとナタルも同じように固まってしまった。
まさか、これほど世間知らずだとは思っていなかったのだ。
ガリンは学院で、ルルテは王宮で、2人とも箱入りなのだから当たり前なのだが、リアたちは当然知らない。とにかく連れてきてしまったものはしょうがない。しかし、道で露店を営んでいる者達は、いかにも貴族然とした衣服を着て歩いている2人に目を付けないわけがない。
すぐにあちこちから声を掛けられ、大騒ぎになってしまった。
リアはナタルに目くばせをすると、リアはルルテの手を引き、ナタルはガリンの背を押して、とにかくその場を逃げるようにして離れた。
サラがいるだろう酒場は、外郭市街でも一番端に近い。
そこまで2人を連れていく間、何度も同じような目に遭い、リアとナタルが2人を連れて酒場に辿りついた時には、疲れ果ててしまったのは言うまでもなかった。
誤字脱字の修正。語尾の修正。20263.11




