旅の準備 その12 サラの居場所
ルルテの怒りが危険域に達したのを、いち早く察したガリンが、
「ルルテ・・・。彼には悪気はないのです。今日は、まずは鱗についての調査が優先ですよ。それにこの2人は、ララス領でも我々の臣下となる予定です。大目に見てもらえませんか?」
急いで取りなす。
リアも、ガリンの配慮にすぐに気づき、
「お嬢様。我が相棒が失礼しました。今後、しっかり教育致しますので、寛大なご判断をいただければ・・・。」
ナタルの頭に手を掛けて、無理矢理一緒に頭を下げるのだった。
ルルテも、リアとナタルの様子をみて、
「ふむ。まあ、よかろう。我は、既に結婚できる大人なのだ。それを忘れるでないぞ。」
と、溜飲を下げたのだった。
ガリンもリアも、
『大人は自分の事を大人とは言わないのですが・・・』
『それを言っているうちは、まだ子供なんだけどね・・・』
それぞれ同じような感想を抱いていたのだが、もちろん顔には出さない。
ナタルは、
「すいません。」
もう一度、頭をさげた。
「ササレリアシータよ。今日のところはおぬしに免じ、許すとしよう。では、さっそくで悪いが、そのサラとやらの居るところに案内してもらえるかの。」
「ルルテ?」
「ガリンよ。その者が、レイレイが言う『友連れ』かもしれぬのだぞ。この機会を逃す手はない。2人の話だと、そのサラという者もレイレイを探しておるようではないか。」
ルルテの言うことはその通りなのだが、そんな得体のしれない傭兵に、予定もなく会うなど出来るはずもない。
「心配は要らぬぞ。軍角士、しかも司にあるものが2名も護衛に付いてくれるのだ。それに、そなたもおるではないか。そなたは、傭兵風情なぞに後れをとるつもりなのか?」
こうなっては、ルルテは止まらない。
ガリンが、困ったような顔でリアとナタルをみると、
「もちろん、そのつもりだったからな。いいぜ。護衛してやる。」
ナタルが軽く護衛を受け、リアもガリンに笑顔で頷いたのだった。
リアもナタルも、2人に声を掛けたのは、レイレイの情報を得るためであったし、場合によっては目の前の2人をサラと引き合わせよう、とも考えていたのだ。ルルテの言葉は、渡りに船である。
「で、そのサラという傭兵は、どこにおるのだ?」
リアの顔が、先程までの穏やかものから、軍角士としてのそれに変わる。
膝をつき頭を下げ、
「護士殿にお尋ねします。これから護士殿とお嬢様をお連れするのは、第2城郭市街地ではなく、外殻市街地となります。当然、治安も雲泥の差があることでしょう。本来なら、お2人に仕える予定のこのササレリアシータ、お2人をそのような治安の悪い場所にお連れすることはお止めすべき立場にあるのですが、もしお2人が望むのであれば、命に従います。」
伺いを立てたのだ。
本来であれは、ここは学院の前とはいっても、人の通りもある。そのような平伏はするべきではない。
ただ、リアはためらうことなく、それを選んだ。
そして、それはナタルも同じで、リアが膝をつくと、ナタルも何も言わずにそれに従ったのだった。
「治安ですか・・・。」
護士が、困ったようにつぶやく。
「ガリンよ。この者達が申している、外殻市街地とはなんなのだ?我は知らぬのだが。ここが市街ではないのか?」
「私も、実のところ学院のあるこの区域以外にはほとんど行ったことがないのです。」
「そうか。では知っている者に聞くとしよう」
そう言う、ルルテは頭を下げているリアとナタルに顔をあげるように告げ、学院の門を指さして、中にはいるように促す。
ガリンも、この場所で話をするよりは人目には付きにくいだろうと、頷いてそれに従った。
4人は、学院の門をくぐり、初等教育機関の裏手まで移動すると、リアたちが再び膝をつこうとしたため、ルルテが手で制す。
「膝をつく必要はない。そのまま話をするがよい。」
ルルテの言葉に、リアとナタルが顔を見合わせると、2人で頷きあい、話を再開した。
「今、私たちがいるこの学院は、第2城郭市街と呼ばれている区域にあります。あの事件があった闘技場もそうですね。
そして、おそらく姫様の住んでおられる屋敷があるのが、城の城壁と内堀の城壁との間にある、第一城郭市街となります。私たち軍角士の兵舎もそこにあります。もっとも、姫様達の屋敷は、もっと王宮に近い高台にあるでしょうから、私たちの兵舎からはかなり距離があると思います。」
ガリンとルルテが頷くのを確認して、リアが話を続ける。
「逆に、王都の外壁を囲っている外堀と今私たちがいる第2城郭市街の城壁の間にあるのが、外殻市街となります。その区画には、一般国民や国との取引がある大店や銀行などの公的要素の強いお店以外の商店がございます。商人の呼び声と、道行く町人の雑多な声が絶えない所であります。基本的には、もともと貴族位にあるお2人には、まず縁がない地域でございます。」
ガリンは、もともとの貴族ではない。しかしながら、宮廷晶角士であるレンの養子であり、現在護士の任に就いているのだ。いや、正確にはララス領の領主でもある。レンの位階や自分の立ち位置を考えれば、そう誤解されてもしょうがないのだろうと考え、わざわざ訂正はしなかった。ルルテも、そこには何も言わず聞いているところをみると、特に問題にするところではないと感じていたのであろう。
「なるほど。要は、貴族が立ち入らぬ区画ということだな?」
ルルテが問う。
「そうでございます。」
「だから、護士さんや、姫様を連れていくには、ちょっと慎重になるわけんだよ。」
ナタルが、ざっくばらんにまとめた。
「それで、治安が悪いという訳ですね。」
ガリンも理解をしたようだ。
同時に、
『ルルテの事を言ってはいられませんね。これから巡察の旅に出るのであれば、私自身も学ばなければならないことが多そうです。誰か、一般国民の生活に詳しいものが旅の共に必要なのかもしれませんね。』
と、考えを巡らせていた。
「なるほどな。そのサラとやらがいる場所は、おぬしらの護衛があっても、それほど危険な場所なのか?」
ルルテが再び問う。
「いや、大丈夫だろ、俺やリアも最近はよく出入りしているが、見かけは荒っぽいが、気のいい奴らばっかりだ。それに、俺やリアがいれば、トラブルも起きないだろうさ。」
ナタルが軽く言う。
「そうなのですか?」
ガリンが、リアに確認する。
ナタルは若干不満そうな顔をするが、リアに睨まれてその不満を飲み込んだ。
「言い方は、雑ですが、私もナタルと同意見でございます。」
リアが、ナタルの意見に同意を見せた。
誤字脱字、語尾の修正。外郭市街のイメージを示す文を1文追加。




