旅の準備 その11 ナタルの窮地?
リアとルルテが新しい友情を育んでいる横で、ガリンが冷静さを取り戻した。
「で、お2人は、私たちに何か用があったのではないですか?」
リアは、ガリンから改めて問われてようやく本来の目的を思い出したのか、口に手をあてた。
「あ、そうだったわ。そんな綿毛のような、ふわふわした全身白いコートなんて着ているものだから、ついついそっちが気になってしまって・・・。」
ナタルも、2人を頭の先からつま先まで見て、
「前回もだけど、すごいセンスだよな。白に金の縁取り、相当好きなんだろうな・・・。」
と感想を口にした。リアとナタルがおかしそうに顔を見合わせる。
一瞬だけ、ルルテが目じりを上げたが、すぐに消えた。
「おぬしらは、かなり薄着だな。寒くはないのか?」
ルルテが問う。
「ええ。軽装備はそのままだけど、実は中にかなり温かい保温性の高い肌着を着てるのよ。あんまり色々着こんじゃうと、いざというときに戦えなくなってしまうから・・・。」
「なるほどのぉ。」
ルルテが素直に感嘆の声をあげる。
「やはり、優秀な軍角士は違うのだな。まあ、我のガリンは服装などに関係なく、我を守ってくれるであろうが。」
さりげなくガリン自慢を会話に混ぜ込む。ガリンは、ひたすら無言で耐え、
『やはり、この服はやりすぎなのだ。そもそも元力石で身体の周りを遮熱結界で包めばよかったのです』
と、この服を着る前にルルテに対してさんざん提案した自身の意見を思い出していたのだった。
ルルテが急にガリンに鋭い視線を向ける。
ガリンは、急いで眉間に皺を寄せたまま愛想笑いを返す。
こんな時ガリンは、『どうして、時々ルルテはこんなに鋭いのだろう』と不思議でしょうがない。そして何回考えても、その理由は見つけることができていないのだ。
「で、我らに声を掛けた理由はなんだ?」
ガリンから視線を戻すと、ルルテが問い直す。
「ええ。実は・・・・。」
リアは、先日の酒場でのカカノーゼの祝勝会でサラと話した会話の内容を、ガリンとルルテに伝えたのだった。
「そのサラという傭兵も、腰の部分に鱗があったのですか?」
「実際に見たのはナタルなんだけど、そうなのよね?」
ガリンの質問への答えを、リアがナタルに確認する。
「ああ、見たぜ。ひし形のつるっとした鱗だった。1枚ではなく、腰から尻の方を覆うように鱗がびっしりだったな。そうだな・・・。今、護士さんが首留めに使っているような形の鱗ではなく、若干丸みを帯びたひし形だったぜ。」
「なるほど・・。」
ガリンが考え込むように頷いた。
「ふむ。レイレイの鱗は確かにひし形ではないな。どちらかというと逆三角形に近いであろう。まあ、ハート型といったところかの。」
ルルテが、ナタルの話の鱗とレイレイの鱗の違いを言葉にする。
「あ、姫さん、そうそう。サラもハート形って言ってたような気がするな。」
「いいかしら?」
リアが会話に割って入る。
「サラ、そしてカカノーゼはね。あ、カカノーゼというのは闘技大会でナタルと戦った斧の戦士の事ね。その2人が、今、お嬢様が名前を出したレイレイ?その子の角のことも気にしていたのよ。耳の上に2本の角があるのは竜族だって言ってたわ。そして、竜族の鱗はハートのような形をしているんだって。」
「・・・。」
ガリンが、考える様に再び無言になる。
「言えないのであれば、言わなくていいわ。」
リアが慌てて付け加える。
「いえ。既にお2人にララス領での従軍の内示が出ているのであれば、遅かれ早かれレイレイのことは知ることになるでしょうから、それは良いのです。それより、何故カカノーゼや、そのサラという傭兵が竜族のことを知っているのかが気になるのです。」
「どういうことだ?」
と、ルルテ。
「ルルテ。エバのところでレイレイを培養していた時に説明したと思いますが、今は竜族は人の前には姿を現しておらず、場合によっては絶滅している可能性もある種なのです。もし居たとしても敵として考えられています。少し難しい話になりますが、竜は我々文様術師が生み出したキメラではなく、古来存在していた1つの原種なのです。」
「確かに、そんなことを言っておったな。それがどうしたのだ?」
ルルテと一緒にリアとナタルも頷きながら話を聞いている。
「竜族以外に身体に鱗をもっているのは、竜族を祖とする竜人と、その竜人を祖とする蜥蜴人、あとは今は禁じられている人と蛇のキメラであるラミア族の子孫のみとなります。純粋な動物や魔物であれば他にも鱗を持った個体もいるでしょうが、竜族が人化できる伝説を是とするならば、人型となるとそのぐらいしかいないのです。では、腰に鱗を持つサラという傭兵は一体何なんでしょうね?」
3人とも、ガリンの疑問の答えを思いつくことが出来ない。
ガリンが悩むぐらいなのだから、他の3人が答えを持っていないのもやむを得ないというところだが、実際にサラに会ったリアとナタルも、サラは人にしか見えなかったのだ。
「サラは、少なくとも人に見えた。それも・・・」
そう言って、ナタルが少しだけ顔を赤くした。
それを見逃すリアではない。
「ナタル。あなたさっきも、腰からお尻に掛けてって言ってたわよね?」
「あ。ああ?」
「あんな短時間で、そんなにしっかり見たのね?」
「いや。だって。それは・・・。」
「それに、今なんと言おうとしたの?」
「いや、まあ、あはは。」
ルルテが面白そうに会話に混じる。
「ナタルだったか。素直に言った方が良いぞ。我も興味がある。なんなら王族である我から命令としてもよいぞ。」
その言葉に、リアがルルテに口角をあげて頷く。
「いや、まあ・・・。」
「早く申せ。」
「そう、だ、な。妖艶、いや健康的な、かな。そういう女性にしか見えなかったんだ。」
リアとルルテが、ナタルを睨む。
「有罪だな。」
「有罪ね。」
息もぴったり。
「だいたいナタルよ。妖艶と健康的ではまったく意味が違うではないか。素直に魅力的と申せば良いものを。男は女に素直であるべきだぞ。」
「・・・。」
ナタルが項垂れる。
「おい。護士さん。姫さんは本当に子供なのか?」
ナタルが、ガリンに向けて愚痴る。
途端にガリンが『あっ』という表情を浮かべたが、既に遅い。
「おい、浮気者。我は子供ではないぞ。既に元服しておる。それとも、おぬしは自国の王女の元服を知らぬのか。職を失いたくないのであれば申せ。聞いてやるぞ。」
ルルテの声が、とうとう危険域に達した・・・。
誤字脱字、語尾の修正。2026.3.9




