アレはもう成れの果てさ
骨と骨をつなぐ筋繊維が所々千切れゆらゆらとはためいて、まるで異形の体躯を覆う炎のようにその存在を誇示していた。
鋭く尖った不揃いな牙は奥に向かって何重にも層を形成し、次第に小さくなっていく。その中央ーー黒く禍々しい孔から熱気が放たれ周囲の全てを燃やし溶かす。
「グゴギャアアアアアァァァァァッ!!!!」
相当の距離を取っているはずなのに、耳をつんざくほどの咆哮が響き渡る。
「何、ですか……あれ?」
「あれがミーナ本来の……いや、その身に取り込んだ四号ーーカトルの姿さ」
「ミーナ……? うそ……」
「キューちゃん、アレはもう成れの果てさ。ミーナの意思は存在しない。ただあるのは命じられたお役目の遂行のみ」
「それって…………」
不穏分子の殲滅ーー。
リクコがそう呟いた瞬間、かつてミーナだったモノは咆哮をあげながら近寄ってくる。
肋骨の変化した二十四本の脚を節足動物のように蠕動し進んでいく。その速さはキューの予想を上回るもので、瞬く間に彼我の差は埋められてしまった。
「マズいっ! 逃げるよ皆!」
アルの掛け声で一斉に踵を返しその場から走り去る。
瓦礫やら七号の亡骸やらで散らかった道を、足を取られないように慎重かつ大胆な跳躍で以って進み、ミーナから距離を取る。
ミーナは障害物など気にする素振りも見せず、全てを押し除け吹き飛ばしては逃げる獲物を追いかけることのみを遂行しようとしている。
「キューちゃん、聞いて? このままリクコのラボに向かうわ。あそこでこのバカを治せさえすれば勝機はある」
「ホントですか? アル」
「ええ。万全の状態のリクコなら斃せない相手じゃないわ。幸いにも距離も近いしね」
「おや、案外私のこと信用してるんじゃーー」
「違うわ! ただ強さを認めてるだけ。勘違いも甚だしい」
「辛辣〜ぅ」
そうこうしているとアルが「こっちよ」と言って方向転換し細道に入ると切り通しからの十字路に出たのだった。
「ここは確か……」
ドクターの私物を盗んで逃亡したユキノが七号に追われ、キューとノリに邂逅した場所である。その証拠に炎上した車両やらの跡がそのまま残っている。
この地点からリクコのラボは目と鼻の先だ。
「…………キアアァァァァァァッ!」
ミーナとの距離は常に目視できる範囲を保ててはいるものの、いつ追いつかれるか予断を許さない状況であることに変わりはない。
リクコの治療さえ済ませられればアルの分裂も解け単純な戦力増強になる。
しかし、追跡者が易々とそれを許すかは別の話である。
ーーボクにできる最善手は。
そう、ボクがやらなければならない。
ノリを助けてミレイを正気に戻して、そうしてやり直すには、ここで終わらせるわけにはいかない。
だからーー。
キューは踵を返し叫んだ。
「殿はボクが務めますっ! 先に行ってください」




