ボクにはまだ、やるべきことが沢山あるんですーーっ
「キューちゃんっ!!」
「いいから行って! ボクは大丈夫だから……」
「そんなこと言ってこの死にたがりがっ!!」
立ち止まり半身を後ろに向けて怒鳴るアルをリクコが至って冷静に「キューちゃんを信じよう」と言って宥めた。
アルは渋々了承し、地面を蹴って駆けていった。それに続きリクコもその場から去った。
去り際、リクコがそっと何かを呟く。
キューは彼らが視界から消えたのを確認すると後ろを振り向いた。
そこには獲物を前に大口を開け、今にも襲い掛からんとするミーナの成れの果てがいた。
「……待っててねぇ、か」
ーーちょっとそこまで花を摘みにいってくるから、ペットと戯れててくれる? という感覚なのだろう。この状況すらリクコにとっては戯れに過ぎないのかもしれない。
ただただおぞましい。
リクコは多くを語らない。それは彼女自身が器用に何でもこなしーーいや、こなせてしまうからこそ他人を信用せず駒のように扱って反感を買い、問い質されても惚けて煙にまく。しかし、キューは知っている。彼女が見据えているのがその先の先であることを。
おぞましくても構わない。
ーー信じるしか、ないのだ。
「さあ、ミーナ! ちょっとばかし付き合ってもらいますよ」
「ググ、グゴキュアアゥアアアアァッ!!」
もうヒトであったことすら忘れてしまったであろうミーナに駆け寄り、大きく開け放った口の真ん前で尾を地面に叩きつけ跳躍すると、キューは身を捻り姿勢を変え、ミーナを挑発するようにして周囲を跳び回った。
「こっちですよ〜。ちんたらしてると斃してしまいますよ」
「グ、グガガッ…ギァア!」
ミーナと体を共有していたデンタータというどこまでも下品な口(口そのものである)が何者であったのかを明確にすることはできないが、憶測は容易である。つまりは、四号ーーカトルの細胞なり体液なりをその身に取り込んだミーナは人外の力を手に入れ、カトルは安定した身体を手にしたーー。
宙を舞ってミーナを翻弄するキューは持ち前の身軽さで以って怒涛の猛攻の全てを躱すものの、それはいっこうに止まることなく、徒らにキューの体力を消耗させていた。
自己再生能力があっても治るのは身体のみで体力は範疇外だ。それに反動もある。無闇やたらに動いて攻撃を受ければ、死にはしないものの決して万全とは言い難くなってしまう。
「一撃たりとも喰らうわけにはいかない。ボクにはまだ、やるべきことが沢山あるんですーーっ!」
そのーーほんの一瞬の葛藤が、眼前に迫る尾に対し認識を鈍らせてしまった。




