やなこった
骨の砕ける厭な感触を尻尾を通じ、歯を食いしばりながらもキューはその現実を受け入れなければならなかった。
リクコを追い跳躍して中空にいたミーナを打ち落とすのに、ためらいは不要であった。少しでもためらえばやられてしまうのは必至で、感情と利害を天秤にかけることすら烏滸がましく、敵である彼女を斃すのは、もはや必然のこととなっていた。
話し合いの余地もない。襲撃は命令されてのことだろうが、好戦的な彼女の言動からはそれに対する葛藤もなければ躊躇いもない。ただあるのは至極本能的な、相手を斃し己の強さの証明とする原始の感情のみだ。
そんな相手であっても痛みにもがき苦しむ姿は見たくない。
キューの双眸は打ち落とされ曲線を描いて落下していくミーナの輪郭を捉えていた。体勢を立て直す余裕もなく、ただ無気力に落下する様は無惨で痛々しい。その内地面と衝突したのか、ぐしゃりという耳障りな音がしキューはアルと顔を見合わせた。
「……やった、のでしょうか?」
「どうだろうね。オクトの手下がこれくらいで死ぬとは思えないけど」
ミーナの落下地点におずおずと近寄る二人に、近隣の建物の屋上に避難していたリクコが声を荒らげてこう叫んだ。
「逃げろっ! 二人とも今すぐそいつから離れるんだ!」
瞬間、凄まじい熱風が二人を襲った。
それはミーナの方から発しているようで、周囲の七号の亡骸は舞い上がり四方八方に飛ばされてしまっている。あまりの高温に体が燃え火球となっている個体もあった。
キューとアルはというと、リクコの警告のおかげで九死に一生を得、軽度の熱傷は負ったものの無事に安全圏まで逃れていた。
「大丈夫……みたいだね」
同様に息災であったリクコと彼女を乗せた変態姿のマネキンも二人に近寄って来、互いの無事を喜んだ。
「リクコが叫ぶのが少しでも遅れてたら危なかったわ。悔しいけど感謝するしかないね」
「アルちゃん〜何それ。素直に喜んでもいいんだよ」
「やなこった」
「……にしても、アレは何なんですか?」
「それは…………ッ!」
言い淀むリクコはちらと熱風の発信源を一瞥する。
燃え盛る炎の中、黒く煤けた人型が吊り上げられたようにだらりと宙に浮き、頭部だけが一切動かず振り子よろしく胴体が揺れていた。
途端、頭部から巨大な牙が現れ胴体は膨らみ破裂して臓物は吹き飛び熱で消え失せ、骨が剥き出しに。その骨も牙と同じように巨大化し、目視が容易になった。
肋骨は胸骨から解離し、幾つもの節に分かれて先端がかぎ爪のように、そして腸骨から放たれた仙骨からなる脊柱が尻尾のように変化し、まごうことなき異形へと成っていくのを、キューとアルはただ見ていることしかできなかった。




