ただ終末を待つのは性に合わないのよ
薄暗くジメジメとした隧道の突き当たりには梯子があり、それを登っていくと鬱蒼とした森の只中へと出たのだった。
外は夕暮れに染まり、木々の梢の間から漏れ出る橙の光が繁茂した草木に当たっては赤みを付与し、風で揺れ煌びやかに輝く絨毯となっている。
「こんなところに……」
「静かに暮らしていくなら地下に篭るのが一番ってね」
「あの……アルはボクたちに関わったりしていいのですか?」
アルが短いおかっぱの髪の先を撫で、顔を背けると独り言のように呟いた。
「……もう疲れちゃったのよ。ドクターに造られて数百年……私は、何も成してこられなかった。ただ実験体として捨て駒のように扱われるのは……おしまい」
「……アル」
「いえ……何でもないわ。私は、私にできることをやるだけ……そう、ただそれだけ」
ーー先刻。
アルはドクターが何をしようとしてるのかをキューに説明した。それはリクコも承知の上らしく時折うなずいたりしていた。
「キューちゃんはもしあの時からやり直せたら、なんて考えたこと……ある?」
「ええ、それは勿論。みんなそうじゃないんですか?」
「後悔しないヒトなんていない。強弱はあれど皆その感情を持っている。じゃあ、もし本当に人生をやり直せるのだとしたら、はたして全てを投げ出して突き進むのはいけない事かしら」
いけない事のはずがない。
きっと誰だって間違いを犯した自分から逃げたい、なかったことにしたいと思う心が例え砂粒のような大きさであってもあるはずだ。
キューは黙って首を横に振った。
「選択肢は無数にある。人々がどういう選択肢をしたかによってその都度枝分かれしていく世界。まるで大樹の幹から生える梢のようにーー。この世界はねキューちゃん、その梢の端なのよ。先には何もない、因果も関与しない。あるのは虚無だけ」
「だったらっ! ボクたちのやっていることは無駄なんですか?」
「いえ、私たちにしかできないことがあるわ。ただ終末を待つのは性に合わないのよ。私もリクコも、そして……ドクターも」
そう言ってアルはリクコをマネキンに背負わせ、自身も身支度を始めたーー。
キューとアルの後に続いてリクコを乗せたマネキンが付いてきている。
リクコは目下自由に動くことすらままならない。且つアルは分裂している分能力も落ちているので、戦力としては期待できない。
「……ボクが頑張らなくちゃ」
小声でそう言ったのを知ってか知らずか、アルはキューの肩をポンと叩いて破顔した。
「まずは一丁前に怪我なんかした生意気な単眼をなんとかしましょ」




