アレは、正真正銘のバケモノさ
アルは一つ大きな咳払いをした。
「現状、なりふりかまっていられないのは皆同じよ。味方はここにいる私たち三人だけ。ドクターを斃せば万事解決、とはいかないけど活路は見出せる。……もうアレは生みの親でもなんでもない」
ーーただのバケモノよ。
語気を強めて話すアルを抑えるように「どうどう」と冗談めかして言うとリクコがそれに付け加えるように、
「以前は理性を保ってたけど、最近は侵食が進んじゃってね。されるがままよ」
「……されるがままって何にです?」
リクコは少し俯いて黙ってしまい暫くの間静寂が続いた。翳を含んだそれに耐えかね、キューが遠慮がちに「リクコ……?」と呟くと、はっとしたようにリクコが首を上げ答えた。
「マザー、さ」
「確かキューちゃんはマザーに会ったことなかったんじゃないの? ねえ、リクコ」
「そう……だね。アレに対峙していないキューちゃんは言われてもピンと来ないでしょうけど、アレは……ドクターがマザーと呼んでるアレは、正真正銘のバケモノさ。キューちゃんも会えば分かるよ」
「というかこれから会いに行くんだけどね」
「それは……」
ーーこの二人と自分の認識の間には越えられない壁がある。それは重々承知しているけれども、ただ付いていくことしかできない不甲斐なさを完全に払拭することは、現状のキューにはとても烏滸がましく、そっと唇を噛んだ。
「……ということさね。キューちゃんにも働いてもらうよん」
「でもリクコがこんな状況じゃどうしようもないじゃないですか」
言ってキューはリクコをちらと見て、憐憫で以て眉をひそめた。
生きているのが不思議な程外傷の程度が酷く、更に左の二の腕から先が無くなっている。ドクターに操られていたとはいえ、ミレイがそれをやったという事実を受け入れることが出来兼ねた。
「そもそも多勢に無勢ですよ。もしリクコの怪我がなかったとしても勝てるとは到底思えません」
そんなキューの機微を慮ってか、リクコが軽い調子で、
「キューちゃんはもう少し自分に自信を持った方がいいよ」
「ボクは……」
「大丈夫……キューちゃんに全部背負わせたりしない。私たちみんなで終わらせる」
その時だった。
「そのためには、リクコを治療する必要がある」
部屋の外からの声。
そして、現れた変態型のマネキンーー。
「なっ……なっ……」
悲鳴を上げようとするのをなんとか抑え、わなわなと震えるキューをアルは必死に宥めた。
「私は不定形だから分裂もできるの。だからこれも私。可動域が高いから便利よ」
「そういう……問題じゃ……いや、もう結構です」




