まあ、そう易々とはいかないよねえ
キューはマネキン(アルの分裂した一方が取り憑いている)に背負われたリクコを一瞥した。
「なんとかするって、どういう……」
「そのまんま。……治療するの。粉微塵になっても時間さえあれば元通りになるキューちゃんには分からないかもしれないけど、欠損した左腕は生えてこないわ。その代わり他の怪我は完治させられる」
他人に背負われなければならないほど憔悴しきったリクコを見るのはキューにとっても堪らなく、心をえぐられる痛みで思わず胸を押さえた。
リクコに聞かされたのは「何があったのか」という事実だけで、ミレイが何を思い悩み、葛藤し、そうして何故爪を立てるに至ったのかを知る術はなかった。
きっと聞いたところで教えてはくれないだろう。
それはリクコへの不信感からではなく、自身の不甲斐なさを起因として成ったもので、毅然と立ち向かっていくには大きすぎる壁であった。
「行き先は……私のラボさ。あそこには治療薬がある」
そして、彼らはリクコのラボへ向かって歩き出した。
街は重く粘着質の静寂に包まれている。ただ外見だけが整っていて、営みを微塵も感じられないその風景は薄気味悪く、刻々と歪さを増していた。
ーー息が苦しい。
喉が渇いて仕方がない。
体があつく火照って、唇は震え、自身の鼓動の音が耳にまで響いてしまいそうなほど強く早くリズムを刻む。
ドクターは狡猾だ。全てを知った上で泳がせ、楽しませてから嬲り殺すーー。
リクコもミレイも、ノリもーーアルだって例外じゃない。皆、彼の掌で踊っていただけだ。どうして自分だけが大丈夫だと言い切れるだろう。
キューは考える。
ーーもし自分がドクターの立場だったとして、この絶対有利の状況を覆し兼ねないジョーカーとなり得る手札とは何なのか。
合点がいった瞬間だった。
赤ん坊の泣くような声がけたたましく鳴り響き、建物の隙間や屋上、道の両端からぞろぞろと湧いて出た大量の七号が行く手を完全に塞いでしまった。
威嚇のためか、更に大きく鳴く。
「……ななちゃん」
「まあ、そう易々とはいかないよねえ。キューちゃんっ! ここは私たち二人で死守するよ」
その不気味な外見とは裏腹にヒト懐っこく、よく遊んでいたのを思い出し二の足を踏むが、それもほんの一瞬のことですぐに臨戦態勢に入った。
「リクコには絶対手を出させない。ボクが相手だ!」
言って駆け出したキューは尻尾を極限まで伸ばし七号を横一閃に薙ぎ払った。
吹き飛ばされた七号が建物に衝突し外壁に巨大な穴を開け、土埃が周囲に舞う。
飛び回っては背後をとり体当たりを仕掛けてくる七号を尻尾による裏拳で返り討ちにし見事打ち倒した。
「……うん。私も負けてられない、か」




