いいねえ、みっともなく命乞いするその姿!
ーー私はただ、みんなと仲良くバカやっていたかっただけなんだ。
自分の存在が実験動物と同等だと分かっていた。でもただ受動的に体を弄られるのは厭であった。
だから、進んで実験に参加した。
N細胞というバケモノの素を摂取し、それを繰り返す内に本来のヒトの姿からかけ離れていった。更に無類の強さを手に入れ、自分と同じ境遇の実験動物ーー被験体たちを助け、仲間にしみんなで仲良く暮らして行けたらそんな愉快なことはない。
ドクターはこの世界は虚無だと言う。
梢の端、とも。この先は何もない終わりの世界ーー。
「死んでもらうにしても、趣向を凝らすべきだろう。違うかい? 六号」
「私の名前は……リクコだ」
そう言えば一度も名前で呼んでもらった試しがないな、と突拍子もないことを考え、途端に過去の様々な事象が走馬灯のように脳の端に浮かんでは消えていく。
ーー私、ここまでなのかなあ。まだみんなで鍋パーティーしてないのに。
ドクターが腰を捻り、うんうん唸っている。気持ちよくリクコを殺す方法を探っているのだ。
と、突然「おっ!」と素っ頓狂な声を上げ、
「なんでこんな簡単なことを思いつかなかったんだろう。いいねいいねえ、最高だよ」
リクコは身構える。
何をされようとも狼狽えない。その意思は確かであった。
「三号やあ〜い。こっちに来ておくれええい」
ドクターの気の抜けた叫びに呼応してミレイが駆け寄ってくる。何やら訴えようとしているが、喋るなという「命令」があるのでただ呻くのみである。それを察したのか彼が、
「喋れないのかあ、不憫だねえ。仕方ないな、ヨシッ! 喋ってもいいよお」
「……ッ! わ……私が悪かった、です。だから……もう、やめて。お願い…………ドクター」
既にミレイには反駁の気概など失われており、ただ慇懃にこの場をおさめて貰えるように懇願するのみである。それを承知していながらドクターは意地悪く思案してみせるのだ。
幾らそのことを理解していようと逆らえない。絶対服従をもたらす畏れは確実にミレイの心を抉り取っていた。
「おおっ! いいねえ、みっともなく命乞いするその姿! 慕われていた九号に是非とも見せてあげたかったなあ。名残惜しいけど仕方ないね……『三号、畜生らしくその一つ目のバケモノをできるだけ苦しめて嬲り殺せ』ってね。うっひょー笑える」
ドクターは面白いことを思いついたと欣喜雀躍し、やおら立ち上がるミレイの泣いてひしゃげた顔を見て満足そうにうなずいた。




