やっぱり畜生は畜生ってことだね
体が動かない。
ドクターの「止まれ」という声に応じるように一切の行動を制限されている。
ミレイはこうしてドクターと対峙するのは初めてで、彼がどういった能力を持っているのかまるで検討がつかずにいた。
どれだけ力を込めようともびくともしない。
動こうとする意思よりも遥か上位の観念によって彼の言うことを聞かなければならない、と本能が告げている。
「これ、面白いでしょ? ぼくは君ら全員のお父さんだからね。やっぱりお父さんの言うことは聞かなきゃ。ねえ……三号」
「どういうつもり……? 陰でこそこそヒトのこと操って嘲笑うのが仕事でしょう」
「あはは、ぼくお父さんだよお。そんな口、聞いていいと思ってるの? ……六号、躾はちゃんとしておかないとダメって言ったよね」
ドクターの頭部がリクコの方に少し向き直り、抑揚のない機械的な声で諭すように言う。
「…………てよ、ドクター……」
「んん? そんな小さい声じゃあ聞こえないよ。まったくしょうがない娘だなあ六号は。ここは心優しいぼくが躾のお手本を見せてあげるね」
ドクターはやれやれと言った風に両腕を腰の辺りまで上げ、何度も首を振った。そして、こう一言呟いた。
「跪け」
途端、ミレイは膝を折り両手を地面に付けて頭を下げた。
ーーこの男がもし「死ね」と言えば何の迷いもなく、自分の体は死を選ぶのだろう。それは、血液が流れるのを意図的に止められる者が居ないのと同等の理由で、抗うことのできない絶対無比の力なのだ。
敵わない。敵うはずがない。
「やめてよっ!」
リクコの声だった。酷く焦燥しきった声である。
「六号はわがままだね。そういうところは昔と変わってないなあ。……でもダメェ。さんざ街を好き勝手して……マザーも大層お怒りだ。静謐さの欠片もないってね。この世界は梢の先に出来た毒の果実なんだ。だからこそ、虚無に近い静謐でなければならない」
「何言ってーー」
「誰が口を聞いていいって言った!?」
ドクターはミレイの頭を踏みつけ弄ぶ。彼女の小さく呻くような悲鳴がその度に上がった。
「三号ってこんなに頭わるわるだったっけなあ? やっぱり畜生は畜生ってことだね六号〜」
「その汚い足をどけろおおおおおっ!!」
怒号であった。
平素の飄々としたリクコからは想像もつかないほど憤怒の色の強い叫びだ。
「ななちゃんっ! こいつを殺せえええええええっ!」
ミレイたちを取り囲む形で待機していた七号をリクコが呼んだ。それに呼応して三百二十四体の七号ーーななちゃんがいっせいにドクターに飛びかかる、はずであった。




