楽しそうだね、ぼくも混ぜてほしいなあ
「リクコ……あなたはーー」
「ねえ、聞いてミレイ。時間がないの。私は……私の信念の元で動いている。そのためにはドクターの存在は必要不可欠」
一つ目の少女ーーリクコはミレイの言葉を遮って話す。
「数百年前宇宙から飛来したといわれるN細胞。この変幻自在の細胞はある種の毒を持っていて他の細胞を取り込んで増殖し、文字通り取り替えるのさ」
「それが私たちをこんな姿にした……のよね」
「そう……そして、問題は細胞それ自体が『意思を持っている』ということ」
「じゃあ私たちの意思はどうなってるの?」
リクコは手近な建物の壁に寄りかかり、左腕を庇うようにしてへたり込んでしまった。
息は荒く、肩を上下に揺らして困憊の様子でミレイの質問に答える。
「まだ大丈夫。限度はあるけれど私たちナンバーズには耐性があるから……。その証拠に、この姿になる前の記憶……あるでしょう? 意図的に抜かれたのでなければあるはずだよ」
ーー被験体であった頃の記憶。
自分がまだこんな毛むくじゃらで耳も大きくなく、尻尾なども生えていなかった頃。
薄ぼんやりとまどろんでいるものの、確かに存在している。ミレイは何も言わず首肯した。
「だったらそれを大切にして。自分が自分であるためにーー。ミレイは一号や四号、五号とは違うんだから」
「まるで今際の際みたいな言い草ね」
「そりゃいいねえ、でも残念。私はそう簡単に死なないよ」
リクコが破顔し枯れた笑い声を上げると、ミレイもつられて笑う。
「楽しそうだね、ぼくも混ぜてほしいなあ」
瞬間、場が凍りついた。静寂が漂い二人にまとわりつく。リクコは目を見開いて大量の冷や汗をかいている。
ミレイがゆっくりと振り返ると、白衣を着、奇異な面を被った偉丈夫が立っていた。
「ドクター……なん、で? 出てこないって……約束じゃ……」
「いやあ、あまりにも好き勝手やってくれちゃってるみたいだから見兼ねてさあ。正直なところ、言うこと聞かないならバラして素材にした方がマシだもの」
面を被っているせいか、感情の一切が読み取れない。
「ここは私の領分だよ。ドクターは籠もって実験でもしていれば……いい」
「そうも言ってられないんだよねえ、実はさあーー」
ドクターがそう言いかけた時、畏れから痺れを切らしたミレイが爪を立て吶喊した。凄まじく速い一撃はリクコの目にも到底追い切れるものではなかった。
ーーしかし。
「止まれ」
ドクターの放ったその一言で勝敗は明白の元にさらされたのだった。




