も少し自分に正直になったらどうだい、私みたいにさ
一つ目は流動的に立ち上がり、二の腕の辺りから千切れて無くなった左腕を偲ぶように僅かに微笑し、おどけた風に「こりゃ不便そうだ」などと言って余裕綽綽の様子であった。
これに未だ臨戦態勢で腰を低くし、威嚇の為喉を鳴らして爪を立てているばかりのケダモノは怒り心頭で、罵詈雑言を浴びせかける。
「……ミレイにしては頑張った方じゃない? 苦手でしょうそういう言葉遣い」
「黙れ」
「取りつく島もないねえ。ちょっとは落ち着いたらぁ? ほら、私左腕ないからもう戦えないし」
一つ目は左腕を誇示するようにケダモノの方に差し出す。本来あるはずの手と前腕が欠け、血糊の多く着いた袖がだらりと垂れている。
「キューちゃんみたいに生えてくればいいんだけどね」
キューの名が一つ目の口から出た瞬間、ケダモノの目の色が変わり、大きな咆哮を一つして怒鳴った。
「お前がその名前を呼ぶなっ!」
「……じゃあミレイにはあるというの?」
「……っ! 私は…………私には、そんなもの……要らないっ! 私はただあの子たちの失ったものを取り戻して、あげたいだけなのよ!」
ケダモノが飛びかかり爪で袈裟がけに斬り付ける。しかし、それを一つ目は軽くいなして舞うように避けた。二度三度とやっていく内に完全にケダモノの懐に入り、隙をついてそっと胸に右手を置く。そうして両者とも静止した。
「詰みだよミレイお姉ちゃん」
「くっ……」
少しだけーーほんの少しだけ右手に力を込めるだけで、ケダモノの胸に拳大の風穴が開き命の灯火がぼぅと消えてしまう。
死の強烈な腐敗臭が鋭敏な嗅覚を刺激して一切の行動を堰き止めていた。
四肢の先の関節の寸分でも動いてしまえばこの一つ目は容赦なく自分を殺すだろう。途端、憤怒の激情がかき消えて、微細な死への恐怖と何一つ成し遂げることのできない己への慨嘆が間欠泉のように湧いて出、堪らなく、
「……殺し、なさいよ。殺せばいいでしょっ! あなたとしてもここで邪魔者を排除できれば……」
「ねえ」
「何よっ! 拷問でもするの? 言っておくけど私は何も知らないし、知っていても話さないわ」
一つ目はそっと胸に当てた右手を退け、
「泣くの……止めたら?」
ケダモノーーミレイはその時初めて自身の頬を伝って流れるモノを知った。
「やだっ、違うの……これはあなたを殺せなかったのが悔しくて」
「素直じゃないねえ。ノリノリもキューちゃんも皆そうだ。も少し自分に正直になったらどうだい、私みたいにさ」




