腕無くなっちったじゃん
慟哭であった。
耳をつんざく咆哮が周囲一帯の建物のガラスを割り、地面を揺らし破壊のかぎりを尽くす。
開ききった瞳孔は獲物のみを鮮明に映し出し、見開かれた口元からのぞく鋭く尖った牙が噛み砕く対象を求め、その存在を誇示していた。
殺し喰らうためだけの力があがいきれない衝動を伴って、より頑強で堅牢な形に形成されていく。
ケダモノはまず地面を蹴って飛翔した。次いで先程の咆哮で立ちすくみ動けずにいる棒立ちの獲物の首筋目掛け、大口を開く。そうして今まさに噛み砕かんとする矢先、獲物は振り向いて左腕で庇うようにその強襲を受け止めた。
憤怒に駆られたケダモノの牙が皮膚を貫き肉を引き裂いて、骨を砕く厭な音が周囲に響く。
痛みに歪む一つ目の顔はもう一方の手をケダモノの頭に乗せどうにか引き剥がそうと試みるが上手くいかず、そうこうしてる内に牙はさらに奥へと食い込んでしまう。
ケダモノは頭を何度も揺らし、その度ごとに血しぶきが辺り一面にばら撒かれる。
しかる後に獲物の苦痛に満ちた絶叫とともに着物の袖ごと噛みちぎられ、勢いよく宙に放られると暫く回転しながら舞い、そうして存外に軽い音を立て地面に叩きつけられた。
腕がちぎれたことで牙から解放され、僅かに生じた隙を見逃さなかった一つ目は距離を取るために後方に跳んだ。しかし、その動きはケダモノに読まれていたらしく間髪入れず一方的な猛攻は続けられた。
一つ目の頭の後ろを掴み圧力をかけ抵抗力を削ぎ、すぐ近くの建物の外壁に押し付け、少しずつ押す力を強くしていく。
次第に外壁にヒビが入り鈍く重い轟音がしたと思うと崩壊し落下した瓦礫の下敷きと化した。
それをすぐ様取り出して通りの方へ放り投げるーー。
弾んで回転し、依然として止まらぬ深紅の血を撒き散らしては力なくうつ伏せに倒れ込んだ一つ目は残った右腕を用いてなんとか立ち上がろうとするものの、震えて思うようにできずにいるとケダモノがやってきて、横っ腹のあたりに蹴りを入れた。
二三回転がり静止すると一つ目が、
「いやあ、強い強い。腕無くなっちったじゃん」
「……余裕そうね」
ケダモノは足で以って一つ目の顔を踏みつける。
「なんで反撃しないの……これは殺すか殺されるかの死闘だ。私情は要らないわ」
「私情、か……それさ、ミレイが言っちゃうんだ」
「何……だと!?」
息を荒らげた一つ目が右手でケダモノの足を掴み力を込める。
足のくるぶしから下を潰されるイメージがぞっと脳内に湧き、ケダモノは瞬時うろたえ、その隙に一つ目が右手を振り払い距離を取った。




