当て付けもここまで来ると確かに嗤えるわね
その時ーー。
ああ、綺麗な色だーーとミレイは思った。
深く吸い込まれそうな紫は鈍く輝いていて、ただひたすらに前進する彼女の人となりをそのまま表しているようで、悦びすら感じるほどであった。
視界一杯に映るソレは僅かに収縮し、瞬間、強い衝撃波がミレイを襲い、後方に吹き飛ばされた。沢山のマネキンをなぎ倒しながら何度も何度も地面に打ち付けられ、そうして大通りに停車せられたバンの側方に衝突する形で停止した。
「ぐっ……!」
元々丈夫に造られているのに加えて当たりどころが良かったらしく、至る所から出血はしていたものの、見た目の派手さに反して行動不能に陥るほどの怪我は幸いにもしていなかった。
リクコの力ならば、最初の一撃で頭ごと粉砕させることなど造作もないはずである。
ーー手加減されている?
ふとそう感じてミレイの脳内に大量の疑問符が充満する。
そんなことをして何の得になるというのだろう。ここで邪魔者を排除できれば確実な安寧がもたらされるにも関わらず、何故わざわざ嬲るように痛めつけて、致命傷を与えずに努める意味とはーー。
ミレイにはリクコの真意がいまいち掴みきれないままであった。
「ん〜? 流石ミレイ、しぶといねえ。死んだと思ったのにもぉ〜」
「……残念だったわね。生憎、私頑丈にできてるのよ」
ーー嘘だ。
追撃もしないでのんびりと敵の無事を確認するなんて、莫迦にも程がある。
リクコは至極緩やかな動作で以って歩一歩とミレイに歩み寄ってくる。
いつの間にか喧騒は掻き消えて、雪駄が地面を擦るざりっという音だけとなっていた。
「オクトちゃんの従僕なんだけどさあ、ミレイのこと『ケダモノ』って言ってきかないのよ。狡猾で計算高いってことらしいけど……嗤えない? 嗤えるよねえ〜ミレイお姉ちゃんっ」
「オクト…………八号? 従僕ってことは、ミーナとサヤか。当て付けもここまで来ると確かに嗤えるわね」
ミレイは被験体であった頃のミーナとサヤの回収にも携わっていたのである。
そして、彼女らが自分を憎悪しているという報告も受けていた。
「調査って名目で最近は街の外に居を構え、近寄りもしないのは後ろめたいから? 自分を責めるあの二人の姿をキューちゃんに重ねたくないから?」
「違うわっ! それにキューは、ありがとう……って言ってくれたもの」
「その言葉はミレイのしたことを知っての発言かね? そうじゃないでしょ。キューちゃんも全てを知ればきっとあの従僕のようにあなたを毛嫌うよ」
リクコはミレイから三メートル程のところで足を止め、気怠そうに指の先で頭を掻くと続けた。
「まあいいや。……あー、そうそう。ミレイに朗報があったのよ。聞いてくれるぅ?」




