地雷原に躊躇なく踏み込むのやめて頂戴
処分ーー。
ノリをして「無害だから」と言わしめるミーナとサヤ。彼女らの放ったその言葉の持つ意味をキューが理解するのに、それ相応の時間を要した。
目眩がした。
ドクターの手によって人工的に造られた被験体はある程度まで成長すると街に居を与えられ、そうして強力無比な洗脳や暗示で以って、自身の置かれている異常性に気づかぬままーーまるで人形のようにこの張りぼての、贋造の街を虚に彷徨い続けている。
そこに被験体の意思は一切関与せず、一から十までドクターの一存によってのみ処遇の決定がなされる。
「……でも、失敗した。早とちりのミーナのせい」
「ドクターの力使えるなんて聞いてない。反則。サヤだって『早くバラして脳髄コレクションに加えたい』とか言ってた」
「それはそれ、これはこれ」
キューは彼女らの言っている言葉を理解しようとする努力を放棄した。
ただ確定しているのは、この二人が自分の敵だということ。
ーー処分なんて、絶対にさせない。
ノリに処分命令が出ていたのは確かである。
それは、リクコに教えられたことであって、真意は定かではないが、最もドクターの近くにいるであろう彼女の言ならば信じるに値すると、キューは自分に言い聞かせ、これまでの行動に反映させていた。
デンタータが呆れた風に言う。
「まったく、最近のお子ちゃまはペットの躾もできないんだな。ペットが粗相したらごめんなさいと後始末を忘れんじゃあねえよ」
「デンタータ、地雷原に躊躇なく踏み込むのやめて頂戴」
ペットーー。
キューは視線をノリに移した。顔中脂汗だらけで拳を固く握りしめ、そこから血が滴り落ちている。
見ているのが辛くなって目を逸らす。
ミーナの言った『ドクターの力』をノリが行使しているのであれば、いま彼女らを行動不能に陥らせているのは他ならぬノリということになる。
ならば。
ペットが粗相した、というデンタータの言の意味するところはーー。
それに気づいた時、キューの中で何かが弾けた。
「手加減なんかしてあげません。全力で潰してやる!」
八号の配下と思われる彼女らを害するということは、即ちリクコに盾突くに同義で、それがいかに危険であるかはキュー自身がよく理解していたが、溢れ出る衝動をこれ以上抑えるなんて無理な話であった。
兄を。最愛の兄を侮辱されたのだ。許せるはずがない。
キューは吶喊し距離を縮め、膨らんで鎌首をもたげた尻尾を勢いよく二人の元に振り下ろした。直撃すれば跡形もなく吹き飛んでしまう。
彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。




