風通しよくしてやるぜクソガキ
「どうか落ち着いて頂けませんか? 私たちは今動くことができないのです。無抵抗の私たちをなぶり殺したいとキュー様がおっしゃるのであればやぶさかではありませんが」
「口だけはペラペラと動かせるがな。ハッ」
「ノリ! 何をしているんですか。早くその二人から離れてこちらに来てくださいっ」
「ケッ……無視かよ」
目下判明している状況の大凡は、対峙する赤髪の女二人の間に割って入るノリという歪な形状で、そうなった仔細を本人らに順序立てて説明させるには相手方の情報が少なすぎて且つ目的が不明であるので、不用意に動いてこちらが返り討ちにあう可能性を鑑みると危険極まりなく、尻尾を振り上げたまま膠着状態に陥ってしまっていた。
身動きのできないという彼女らの言を信用するのであれば、尻尾を用いて飛翔しノリを抱き上げてこの場から脱出するのも大いにあり得る。
しかし、彼女らの何もかもが未知数である以上、こうした動きに躊躇いが生じるのは致し方ないことで、本当は体の自由があるにもかかわらずそうではないと嘘をついていた場合、元々大した戦闘能力を持ち合わせていないキューは必然的に反動の大きい自己再生に頼らざるを得ず、二の足を踏むのは至極合理的な判断であった。
「キュー様、私たちはーー」
「ボクはノリに話しかけているんです。部外者は出てこないでください」
「ヒュー、言うねぇ。その生意気な口もろとも噛み砕いて風通しよくしてやるぜクソガキ」
平坦な調子で威圧的な言を繰り返し、萎縮させようというデンタータの魂胆を見抜いてか、キューは尻尾を更に高く上げ、事実その通りになっているのをなんとか悟られまいとした。
それが功を奏したのか、デンタータは不満げに舌打ちして暴言を吐くのをやめた。
左の女は、大きくため息をついて誤解を解きたいという旨を伝え、「まずは」と言って自己紹介をし始めた。
「私はミーナと申します。向かいの仮面の子はサヤといって私の妹。共にオクタ様の従僕でございます」
オクターーという単語を聞いた途端、キューは微細ではあるが警戒を緩めた。
それはリクコの名付けた八号の別名だったからだ。
面識はないが生みの親であるリクコへの信義を強かに抱き、報いることを常として至上の喜びとする、なんとも特異な者だと聞いていた。
「じゃあこれはリクコが?」
「いえ、私たちの独断です」
ミーナはそう言って、自分たちがオクタやリクコとは無関係に動いていることを強調した。
そして、こう続けた。
「私たちの目的はただ一つ。……被験体四九九三六七号の処分です」




