巨乳のネェちゃんがいいなあ
「関係者以外立ち入り禁止」の立て札が無造作に設置せられた屋上への階段を、キューは依然として覚束ない足どりで登っていく。
照明の灯りの乏しい中、見えてきたのは破壊された内と外とを隔てる扉の跡であり、外界からやってくるひゅう、という強い風の鳴る音が、彼女の来訪を拒むように響いていた。
それでも足を止めることなく進み続け屋上の様相が確かめられるところまで来ると、そこに広がっている異様な光景に目を疑った。
奥に見える立ち尽くしている少年ーーノリであろうと思われるーーの手前にナースのような格好をした二人の女が取っ組み合いをしている風に対峙し、動かずにいるのである。
静止している、というよりかは身動きの取れないとした方がよく形容されているであろうその二人の女は、両人共に首から上が珍妙な風貌であった。
向かって左の女は額が大きく裂けており、その間隙から大小様々、不揃いで鋭利な牙が飛び出し、右の女は、左の女の牙を模した面を被っていた。
この二人だ、とキューは思った。
病室で感じた禍々しい殺気の正体ーー。
病み上がりで思うように体の動かない現状で、勝てる見込みのある相手に見えないが、奥で狼狽しているノリの手前、キューは精一杯平生を繕って強く誰何の声を出した。
「あなたたち、何者ですか? 返答によっては少し痛い目を見る羽目になりますよ」
すると、左の女ーー正確にはその額の口ーーが答えた。
「おいおい、見て分かんねえか嬢ちゃんよ。可愛い可愛い看護婦さんじゃあないか。それともオレたちが化け物にでも見えるってのかア?」
額の口はけらけらと下卑た笑い声を上げ、乱暴な語調でそう言った。
「デンタータ、あなた縫われたいの?」
「……賛成」
「縫われるならションベン臭ぇガキじゃなくて、巨乳のネェちゃんがいいなあ」
「……滅」
「どうやら死にたいらしいわね」
彼女らはキューなど眼中にないかの様に振る舞い、ふざけ合っている。
これでは埒が明かないと見たキューは奥に居るノリに声をかけた。
「迎えに来ました……あまり、心配かけさせないで下さい。さあ、一緒に部屋に戻りましょう」
それに対しノリは風に負け、消え入りそうな声でこう返す。
「ごめんなキュー。でも大丈夫、この子たちは無害だから……」
「ノリ、何言ってーー」
「そういうことなんですわキュー様よお! 手前様はお呼びじゃあねェってことさ。それに、まがい物とはいえあのクソ忌々しい耄碌ヤロウの力にゃ逆らえんしな」
一方的な拒絶。
それならば、と次は語尾を少し荒らげて言う。
「ボクはあなたたちなんか知りません。信用できません」
「こちらはキュー様を知っております。それで構いませんよね?」
こんな無意味な押し問答をしていても仕様がない。
キューは尻尾を振り上げ臨戦態勢をとった。




