死んじゃダメですっ!
破壊された床の細かな砕片が埃と撹拌され場に満ちる。
轟音と唐突な浮遊感。
自分が落下しているのだと、状況分析のできるまで冷静となった時にはもう既に何もかも手遅れであった。
ーー初めてヒトを殺めてしまった。
きっと骨も肉も粉々に粉砕せられてもはや原型など留めていないに違いない。
激情に任せてなんと酷いことをしてしまったのだろう、とキューは落下しながら思っていた。
キューの尻尾によって破壊された範囲は半径四五メートル程度で、凡そ円状に衝撃が伝わり、階下に落ちた瓦礫に背を強く打ちつけられ仰向けに倒れたキューの目にはそれこそ円状に縁取られた宵始めの空が映っていた。
その時、視界の端から聞き覚えのある下卑た声と冷徹な低い女の声が共に嘲笑するようにして己が存在を誇示してきた。
「うっひょー、制限ありでこの威力かよ。当たってたらひとたまりもねェな。流石にこればかりはクソムシに感謝感謝」
「キュー様。一つ、申し上げておきますが、四九九三六七号にあまり肩入れするのはご自身のためにならないかと存じます。……それでは」
そう言うと、建物の闇の中に消えていった。
暫く放心状態でいたキューであったが、いっこうにノリが姿を見せないのを不審に思い、度重なる酷使で悲鳴を上げる身体をなんとか起こした。
持てる精一杯の声で呼びかけてみるものの返事はなく、もしやと背後の瓦礫の山を見上げては、想像するに忍びない彼の哀れな姿が脳裏に湧いてはかき消してを繰り返し、号泣しながら必死に瓦礫の一つ一つを取り除いて、ついに辛苦の表情を浮かべ呻くノリを発見したのである。
「今、出してあげますから。死んじゃダメですっ!」
埋もれた彼の体を尻尾も用いて引っ張り出し、背を抱き抱え瓦礫の山から降りようかというまさにその時、不安定な足場によってよろめき、バランスを崩してそのまま下へと転倒してしまった。
キューは咄嗟にノリの頭を保護するように抱き彼に被害の及ばないようにする。
何度も何度も転げては落ちて、下に辿り着く頃にはキューの頭から額、そうして頬にかけて赤い血が滴っていたが、ノリには別段の怪我もなく、それを確認し彼女はほっと胸をなで下ろしたのであった。
「……よっと!」
ーー床の上では可哀想だと思い、キューは正座し意識の朧げなノリの頭を太腿の上に乗せ、彼の意識のしっかりするまで待った。
そしてーー。
「気がつきましたか?」
「キュー……そうか、僕は……はっ! あの二人は?」
飛び起きようとするノリを手で制す。
「もう、居ません。ここにはボクと……ノリだけです」




