そんなの極論じゃないか
ミレイの険しくも強かな双眸はノリを捉えて離さない。
そこに介在するのは、彼女の恐ろしいまでの意志の強さだ。
ーー目を背けてはならない。
このクローンの少年も目下辛い現実と向き合おうと、乗り越えようと努力しているのだ。
ミレイは一つ大きく息をして続けた。
「私、思うのよ。人工的に造られたクローン個体であろうと、有性生殖生物の番による生殖行為で受胎した個体であろうと、生命であるという事実に変わりはないって」
「そんなの極論じゃないか」
「……極論よ。分かってるわ。人類がまだ居た頃は人道的観点だの倫理面による規制だのと、そういった議論自体タブー視されていたのかも知れないけれど、今は違う。だって人類なんてもうどこにも居ないんだもの。あるのはただ生きているか、いないかだけの二元論のみーー」
ノリは口惜しそうに目を伏せた。
「ノリ……あなたは、さっきのお爺さんは生きていると思うかしら?」
「……いえーーというか、生きているのかいないのか以前に、そもそもアレが何なのかすら見当がつかないんです」
そうして、怪訝な表情で窓の外を眺めるノリの頭をミレイは、優しく撫でた。
突拍子もない彼女の行動に面食らったのか、ノリはたじろぎ遠慮がちに彼女の手を払い除けた。
「な……な、何をするんですかっ! 急に」
「あっ、悪いね。嫌だったかしら?」
「嫌じゃないけど……じゃなくて、そういう問題じゃないと言ってるんです」
まったくの無意識であった。
どうしてそんなことをしたのか、説明の仕様のないので、ミレイは適当な理由をつけて誤魔化す。
「ほら、経緯は違えど私とあなたは姉弟なのだし、弟が悩んでいたら慰めるのは当然でしょ? だったら何の問題もないわ」
持論を展開するミレイを訝しげに見据えるノリは、不満げでありながらも先ほどとは打って変わって、すっきりとした面持ちで言った。
「ありがとう……ございます。姉さん」
「姉さんだなんて、面と向かって言われると小っ恥ずかしいわね。ミレイでいいわよミレイで」
「それもそうだ」
ノリが破顔したので、ミレイもつられて破顔した。
その後暫くは他愛もない話をしていたが、ふとした拍子に「あの好好爺は何者なのか」いう話題になり、ミレイは「あなたには色々知っておいてほしいから」と前置きした上でこう応えた。
「あのお爺さんは被験体六九号。遥か昔に廃棄されたあなたの先輩よ。彼はN細胞がヒトの体内でどう変化し、人体を作り替えていくのかを身をもって教えてくれた。
あんなに実験がうまくいったのは初めてのことで、ドクターの欣喜雀躍ぶりは今でも思い出せるわ」




