ね、無様でしょ?
真っ直ぐにこちらを見据える美しい瞳に、ノリはたじろいだ。
とても冗談を言っているようには見えなかったからだ。
湯呑みに半分残ったお茶の器を小さく回し揺らす。波打ったお茶の水面が余韻を残して静かに元に戻り、少し歪に映った自分の顔がどうにも不細工でノリは目を逸らした。
コテージの内壁には大振りのナイフや斧が立て掛けられ、いつでも使用できるように手入れされている。
その反対側の壁には地図だろうか、随分書き込まれた大判の紙が貼られ、持ち主の几帳面さかうかがえる。
さながら前線基地のようだ、と感心し目を泳がせていると、主人であるミレイが「何かおかしいところでもあったか」と聞いたので、ノリは勢いをつけて首を横に振った。
「そう萎縮しなくてもいいわ。私としても気軽に接してくれた方がやりやすいし」
「萎縮なんて……ただ、色々あって混乱してるんだと思います。ついこの間までは世界が滅んでいるなんて夢にも思わなかったんですから」
「暗示ね。それも、凄まじく強力な。寄生体候補として造られた大量の被験体が、結託をしてバカな真似をしないとも限らない。そう考えたドクターが敢行したのよ」
ドクター。
みな口を揃えて言うその人物は、聞けば聞くほど掴めなく、ただただ不気味で、得体の知れない不定形のものと対峙しているような、そんな気分にさせられるのだ。
「あの……気になってたんですですけど、ドクターって一体何者なんですか?」
「さあ?」
「さあ、って。ミレイさんが知らないはずないでしょう」
「それが難しいのよね。私たちーー寄生体はいわゆる被造物でね、ドクターに造られた存在であるが故に、被造物の範疇を超えられないの」
「それはどういう?」
ミレイは胸に垂れた一束の癖毛の髪を、指で挟んで回し、躊躇いがちに答えた。
「簡単に言うと、あなたにかかってた暗示みたいなものね。突き詰めるとドクターに対し反逆を企てない為の措置よ。無意識下での忠誠ってところかしら」
「なんだよ、それ。それじゃまるでーー」
ーーお人形みたい?
先んじてミレイが口走った。
「お人形、傀儡ーー呼び方は色々あるだろうけど、私はドクターに上から糸を垂らされ、指の動きの一つ一つに反応して動いているだけなのよ。ね、無様でしょ?」
「それじゃあ、今こうして話しているのも自分たちの意思じゃないみたいな言い方じゃないか」
「そうね、誇張はあっても間違いではないわ。でも私たちの意思は確かに個々のものよ。それだけは絶対に揺るがない」
ふと一陣の風が、ひゅうと音を立てて微妙に開けられた窓から入ってきた。




