だからアホなのよ
「ミレイ……それが私の名前よ、ノリ君。私個人としては寄生体三号でも構わないのだけれど、リクコがどうしてもって言うから仕方なく、ね」
「優しい……んですね。助けてもくれたし」
「どうかしら。私はあくまでも私の都合で動いているだけよ。そして、もしあなたに敵対の意思ありとみればすぐに首を切り落とすわ。私はリクコやキューみたいに甘くないわよ」
このヒトは本気で言っている。言葉の一つ一つに一切の迷いがないのだ。
寄生体三号、と言っていたことからリクコやキューよりも前に作られた存在なのだろう。
すらりと伸びた肢体や、たおやかな振る舞いが凛々しく、華美ながらも力強さをまとわせ、僕をどうにも惹きつけてやまない。
絶対的強者というのは、こんなヒトのことを言うのだろう、とノリは思った。
丸太を積み上げて簡易的に造られたコテージに連れてこられたノリは、ミレイのすすめで茶をご馳走になっていた。
次々と出される茶菓子を二三個口に放り込んでは茶で無理矢理流し、それからは今まであった出来事を順を追って話した。
その間ミレイは壁に寄りかかって窓の方を眺めていた。大した反応もしないし、もしかしたら聞いていないのではないかとも思ったのだが、頻繁に耳がちょこんと動くのでその辺りは杞憂であったようだ。
ーーそうしてリクコのラボでのふざけた言動に困り果てたところまでくると、初めてミレイは話の腰を折り、呆れたように言った。
「リクコ……あの子ね、ああ見えて寄生体の中じゃトップクラスに頭がいいのよ。普段アホな事しか言ってないのにーー信じられる?」
ノリは黙って首肯した。
「でもーーこれだけは覚えておいてほしいの。自分自身で人体実験を繰り返して、どんどんヒトから遠くなっていくのに、そんなことお構いなしで突き進んで、それでも心まで化け物になりたくないから、道化に徹して。辛くないはずなんてないのに、けらけら笑ってごまかして……だからアホなのよ」
その時ノリは後悔した。
寄生体だ、なんだといっても、結局のところノリと同じヒトなのだ。
今までリクコに向けていた視線に含むものがなかったという確証はない。
「そう……ですね。これじゃあほんとに、アホじゃないか」
ミレイはノリを憐憫でもって一瞥した。
「ドクターが何を考えていらっしゃるのか、私には凡その検討もつかないわ。ただ言えるのは、この世界がすでに終わっていて、不気味で箱物じみた街とその周縁に延々と続く荒廃した外界に囲まれていること。そしてーー」
ーー私たちの存在を許してはいないこと。
ミレイはそう言った。




