大人しク食べられてくレルかい?
ノリの知っているくーには尖った耳や自在に動かせる尻尾なんてものはついていなかったし、名前で呼んだりもしなかった。
じゃあ尻尾の生えた「アレ」はーー?
寄生体、とリクコは言っていた。
「N細胞ってのが宇宙由来だかなんだか知らないけど、細胞それ自体が寄生虫みたいなモノでね、終宿主は炭素生物。中でもヒトに好んで寄生するのーー」
リクコーー寄生体六号は実験的に過剰とも言える細胞を取り込んで生還しているが、本来は微量でも体内に侵入されてしまうと、宿主の体で増殖を繰り返し、既存の細胞を破壊して成り変わる。そうして体を異形に変化させられた宿主は、凶暴性を増すのだそうだ。
ーー多くの命が失われた。その実、寄生されたヒトの数よりも、寄生されたヒトに殺された数の方が圧倒的に多かったのだという。
「私たち寄生体は寄生されても尚、理性を保っていられる特別な存在なの。自分で言ってて烏滸がましいとは思うけど、それはそれ。ドクターがくれたこの命は使えるところまで使い尽くすつもり。ねえ、キューちゃん?」
「ボクは……直接会ったことありませんし、ドクターには感謝してますけどーーええ、まあそうですね」
リクコが六号ならキューは九号ということなのだろう。安直すぎるネーミングセンスとそれとなく分かる名付け親に苦笑してしまう。
ノリはいつの間にかこの二人に親近感を抱いている自分に気づいた。
ユキノは現実を受け入れなかった。
世界は滅んでいない。ここは異世界で自分は救世主として呼ばれたのだと、本気で信じて疑わなかった。
ーーそんなにこの世界が、嫌い?
ノリはこの世界に嫌悪も憎悪も感じていない。寧ろ好感すら抱いている。
だから、キューの正体がくーであってもなくても、どうだっていい。ノリはこの世界で生きていたいのだ。
そのためには逃げるなんて選択肢はかなぐり捨ててやる。
ーーノリは屹と好好爺を見据える。
「おや、どうしたんだね?」
「すみません。僕は戻らなくちゃならないんです。あなたに構っている暇は僕にはない。それにーー」
この好好爺に初めて会った時から付き纏う違和感ーー。
「おじいさん、いつまでそんな仮面被っているんですか?」
「…………」
街中に点在するマネキンと同じ、形を幾ら似せて作っても偽物は偽物でしかない。贋造の笑顔は本物にはなれないのだ。
「そうーーバレてたのか。うまクいってると思っタのに、残念ダ。嗚呼、ザンネン」
透明な糸で縫われた顔表面の皮膚が、ベリベリと音を立てて剥がれていく。長く伸びた触手のような器官で裏から押して、次第に好好爺本来の顔が姿を現した。
脳みそのようにシワだらけの顔には目も鼻も口もなく、中央部にできた穴から紫のマダラ模様の触手がくねくねと蠢いている。
「大人しク食べられてくレルかい?」
好好爺だったものが穏やかな語調で言った。




