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人外少女と終末世界  作者: umt.s5
二章「ナンバーズ」
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にぃちゃんと一緒がいい

 ーー知らない。こんな記憶は僕にはない。

 僕じゃない誰かが、僕の視点で必死に何かから逃げている。


 ーー違う。


 僕の人生は平凡そのものだったはずだ。

 父さんがいて母さんがいて、妹がいてーー。


 妹は父さんの癖毛が遺伝したようで、自然に波打った髪が大小の束になって、縦横無尽に動き回り、強い風でも吹いた日には、妹の顔の大部分が隠れてしまい、家族全員で大笑いした。妹もつられてニヒヒと笑った。


 それでも鬱陶しいのは変わりなく、後ろで束ねるのも億劫だったのか、妹はある日髪短く切り揃えた。


「おそろだね、にぃちゃん」


 純朴な笑顔の妹をいじらしく思った。

 妹は僕が大好きで、僕を真似して自分のことを「ボク」だなんて言うのを遠回しに咎めたら、にぃちゃんは、「ボクがキライなのか」と大泣きされてしまい、困惑した僕は必死になって妹のご機嫌取りをし、何とかその場をなだめ、家の中だけなら使ってもいいと妥協させた。


 そんな調子であるので、服も僕のお下がりを喜んで着た。大きすぎて、袖のだらんと下がった服で腕を振り回し、僕にちょっかいを出してじゃれてくることもしょっちゅうだった。


 華奢で体が弱くて、お兄ちゃん子で、どこに行くにもついて来ては、にぃちゃんにぃちゃんーーと。


 鮮明な記憶。

 マネキンじゃない本物のヒトが往来を行き来している。側にはいつものように妹が居て、手を繋ぎこちらを仰いで破顔する。


「母さんの用事が終わったらくーはどこに行きたい?」

「にぃちゃんと一緒がいい」


 妹の名前は久美子。でも、家族からでさえその名前で呼ばれることは稀で、皆くー、とあだ名で呼んだ。


「ニへへッーー」


 ーー厭なヤツだ。

 僕は、この笑顔を面と向かって受けられるような男じゃないんだ。

 

 他人に誇れる男になるために頑張ったつもりだったけど、現実はそう甘くない。いつも空回りばかりの僕は、クラスメイトから煙たがられ、敬遠される存在となっていた。


 そんな、学校での友人関係の乏しい僕は、家族に傾倒するしかなかった。僕は外での不甲斐なさを補うためだけに家族を、妹を利用したに過ぎない。


 そんな僕に妹は無邪気に笑う。

 きっと本当のことを言っても、そうやって笑って、また「にぃちゃん」って言ってくれるんだろう。


 だって、妹はーー。


「ノリは、何も悪くありませんよ」


 記憶の中の妹が、見知ったダレカと重なっていく。


 ああ、何で気づかなかったんだろう。

 忘れるはずないのにーー。


 忘れちゃいけないはずなのにーー。


「キュー」

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