血と泥だらけで気持ち悪いよ
脆くなったコンクリートを突き上げて芽吹いた草木が繁茂して、ヒトの叡智を侵す。
ヒビ割れた建造物の外壁に蔦が絡まり、以前の面影のほとんどをなくしてしまってはいるが、確かにここにヒトの営みがあったことの証左となる因子だ。
森に、山に飲み込まれたかつての文明都市の残滓が目にこびりついて離れない。
ーー別世界。
ユキノが言った言葉が妙に現実味を帯びてのしかかる。
ノリはどこかでまだ世界が滅んでいなくて、ただの思い過ごしで、そうして、僕の居た街のような風景がずっと続くものだと信じていたの。
しかし現実は覆りようがなくて、朽ち錆びた鉄と、劣化しヒビ割れたコンクリートの無惨な塊が樹々の合間を塗ってあちらこちらに点在するだけの、物悲しい景色が広がっているだけ。
ーーあの街は造りモノ。
ヒトならざるモノが作り出した、贋造の街だ。
だから、街に居るのはマネキンばかりなのだし、意思を持って動くのはリクコやキュー、ななちゃんのような人外に限られている。
じゃあ、この好好爺はなぜ、意思を持って動いている? そもそもヒトなのか? いや、それよりも重要なことがある。
ーー僕は、誰だ?
「くー。歩けるか? おんぶしてやるぞ」
「ありがと、にぃちゃん。でももう大丈夫。ボク一人で歩けるからーー」
「そうか、行こう。きっと父さんや母さんも避難所に居るはずだ。もうすぐ会えるからな、くー」
ーー怒号と悲鳴。急く大量の足音と人影。灰色に煙った建物と赤い炎。恐怖に支配された街で必死で逃げる僕とーー誰か。
瞬間、脳裏に浮かんだ記憶に無い光景と、ふっと湧いて出た強烈な頭痛に、たじろいで後退る。そうして、膝から崩れ落ちてしまった僕は頭を押さえて唸ることしかできなくなっていた。
金槌で脳味噌を直接叩かれているような、鈍い痛み。悶え苦しむ中、好好爺の嗄れた声と共にまたあの光景が脳裏に映し出される。
「服ボロボロだな……」
「血と泥だらけで気持ち悪いよ。にぃちゃん、家戻って替えの服持ってきていい?」
「ダメだ。くーはまたアレに会いたいか?」
「……やだ」
「だったらそんなわがまま言っちゃダメだろ。そのかわり僕のパーカーを着てろ」
紅葉は終わり肌寒くなってきた時分だけに妹の薄着が心配だったというのもあるが、長じても相変わらずお兄ちゃんっ子の妹を安心させるためには、服をあげるのは最善手に思えた。
「帽子もやる。これでもうわがまま言わないよな」
「……うんっ!」




