えっと、つまりね。終わった……ってこと
【前回のあらすじ】
真打ち
「えっ……そんな、九号ひどいっ……」
「キューちゃん、これドクター」
「は?」
「だからあ、ドクターだって。まあ本体はこの趣味の悪いお面なんだけどー」
N細胞寄生体は十進数で番号が後ろにいくに従って、後期に作成された型となる。
故にラストナンバーである九号と六号とでは認識に隔たりがあるのは必然といえる。しかし、それ以前に九号……キューは創造主たるドクターに面識どころか、その人となりすら知り得ていなかったのである。
あるのは精々九号として目覚めてからの記憶とリクコに振り回される記憶。そして、ひどく朧気なそれ以前の温かな――。
「あー、はい。そうなんですね」
「あっれれー? なんか反応うっすくなーい? おとーさんだよ。忘れちゃったんでちゅかあ?」
その時、キューは思った。
――あぁ、リクコの頓狂な言動はコレのせいか、と。
目下、諦念とともにキューの心情の大半を占めていたのは、実に安堵であった。
そうしてアンビバレントな両の心情は撹拌され、頭の中をマダラ模様に染め上げていた。
ドクターがリクコの人格形成に一役買っているとすれば、ややもすれば自分もドクターの側に居ればあの様になっていた可能性があるのだ。そんな決定的な事実を突きつけられ、ちらと鑑みただけでもキューは血の気が引く思いに苛まれた。
――なんて悍ましいことだろう。
「うぅ……お腹痛い」
「もぅ、そんな短いスカート履いてるからポンポン冷えちゃうじゃない。メッ!」
「…………」
リクコ一人でも手一杯なのに、同じ手合いがもう一人増えるのは勘弁してほしいと、キューは切実に思った。
「それで、ドクター今更何しに来たの? 冷やかし? そのお面割るよ」
「え、何? 反抗期なの? ぼかぁ、かなしいよ。折角倒れてた被験体を回収したというのにお礼も言われないなんてさ」
「どういうことですか?」
そのまんまさ、とドクターは嘯いた。
「この体の試験運用で街の外に遠征してたら、エラー品が出たっていうメッセージが七号ネットワークで送られてきたから、取るものもとりあえず戻ってきたのに、いざ戻ってみると九号も居るのにエラー品一体に随分なザマでしょ? 最初は物陰で見守ろうとしてたんだけど、流石にかわいそうでねえ。手出しちゃった。因みに逃走した男型は街の外で三号が見つけて保護したらしいよ――」
「ドクター、あの……仰ってる意味が……」
キューがまごついていると、リクコがキューのパーカーの袖をぐいぐいと掴み、手前を見るように促すと、破顔しこう言った。
「キューちゃん。えっと、つまりね。終わった……ってこと」
既に動かなくなり、パチパチと音を立てて焼けるオリジンの巨躯が、それを物語るかのように、静寂に包まれたショッピングモールに横たわっていた。




