嗚呼、ホントどうしてこうなっちゃうのかしらね
【前回のあらすじ】
無常
この贋造の街で何も疑わず、今日も世界は平和だと信じて閉塞した箱庭の中を生きている。
それはある意味幸せで最高の居場所なのかもしれない。
世界の外がどうなってるのか、知ろうとしなければ知りようがないのだし、ただ与えられるモノを享受していさえすればよいのだ。
――こんな簡単なことはない。
ただ、その思考停止に陥らされたヒトが、以って知的生命体と呼称しても構わないのか、と問われれば返答に窮するに違いない。
そんな中、一人の快活な少女だけはいつも外を知ろうとしていた。
彼女の生来の気質がそうさせるのか、この特異な環境が起因なのかは判別し兼ねたが、暗示も効果は薄く、放置の決定がドクターから下されたのはつい先日のことだった。
彼女――ユキノはマネキンの家族をそれとして認識できなくなっていたようで、完全に覚醒し、ヒトとしての自我を取り戻した彼女にとっては、人工音声で定時に決まった文言しか喋らないようにプログラミングされているマネキンなど、趣味の悪い嫌がらせとしか思えないのだろう――。
ある日、包丁で家族全員を滅多刺しにしていた。
親は居ない、学校も街の中にもマネキンだらけ。
偶に生身のヒトは居てもどこか上の空でまともに喋ることすらできない。
孤独に苛まれた彼女は、ここを異世界だと思い込むようになった。唯一コミュニケーションの図れたノリのことも鑑み、こう設定されていたのだ。
――私と幼馴染みのノリはいつからかおかしな異世界へと迷い込んでしまった。
そこにヒトは居ても魂を抜かれたように街を彷徨うだけの置物と化していた。私はこの世界の救世主として召喚された勇者なのだ。
襲いかかる化け物どもを打ち倒し、世界に平和を取り戻した暁には見事、元の世界に帰ることができる――。
果たして突拍子もないそんな譫妄は、存外に成功せしめたと言えるだろう。
思い込みの力というのは侮れないモノらしく、ユキノは勇猛果敢に得体の知れない化物に立ち向かっていった。
それは紛れもない事実である。
そして――。
リクコの興味を誘ったのは、盗んだ研究データと注入用ナノマシンを誰に教わるでもなく正しく用いたことだ。
怪しい研究所から盗んだ効能の不明なモノを、多少の躊躇いはあったにせよ注入できる胆力と無鉄砲さは過小に評価されるべきではないとリクコは感じたのだ。
――バカは嫌いじゃないの。
キューがご執心の被験体と合わせて興味のつきないことが連続して起こるこの状況は、渡りに船――飽和した冗長な退屈さを吹き飛ばしてくれる風となってくれるかもしれない。
しかし、次第に弱まっていくそれを止めるのは完全に埒外であり、気づいた頃には傍観者でいる選択肢より他は塗りつぶされていたのだ。
「嗚呼、ホントどうしてこうなっちゃうのかしらね」




