面白いヤツだと思ったんだ
【前回のあらすじ】
逃走
深く吸い込まれそうな紫の瞳は、ただじっと映した景色をそのままに捉えている。
悲哀的に細まる微細なまぶたの動きを注視するにつけ、彼女の戯けた調子とのより一層の乖離を伴い、機敏の理解を難しくしていた。
元より冗談と本気の境界線が行きつ戻りつしてるようなヒトなのだから、この程度で狼狽するのは大仰に過ぎるという認識がないわけではない。
しかし、突飛な彼女の言葉はキューの理解の範疇を超えていたのだ。
「じゃあリクコはアレを斃すなと言うんですか」
「キューちゃん、もしかして私たちの目的忘れてない? 研究データとナノマシンの回収――。まあ、二つともユキノちゃんの中だから回収も何もないんだけど。兎も角、あの子――オリジンの討伐はまた今度ね」
「説明になってませんよっ」
「それが私だッ!」
長いショッピングモールの基軸通路も突き当たりに差し掛かり、両開きの自動ドアが確認できる位置までやってきた。
この先はいよいよ外である。
キューそこまで来ると反転し、尻尾に巻きつけていたリクコを解放した後、身構えた。
「キューちゃん、どういうつもり?」
「ここで迎え撃ちます。リクコも協力して下さい」
「それは、できない」
抑揚のないリクコの声は絶対的な拒否の意志を如実に表していた。
そうして、次に放たれた言葉を聞いた時、キューは尻尾の臨戦態勢を解いた。
「……そう……やっぱり言わなきゃダメよねえ――今ねオリジンを斃すと、ナノマシンで繋がってるユキノちゃんも脳が焼き切れて死ぬの。だから……ムリ」
「そんなっ……」
そんな理由でわざわざ危険を冒すのか、と言いかけ、キューは口を噤んだ。
自分たちが助かればユキノはどうなってもいいなんて思いは取り除くべきだ。でなければノリに合わせる顔がない。――と同時にヒトとしての最後の矜恃と尊厳を守るためでもあるのだ。
何も心まで化物になるという法はない。
しかし、違和感は拭いきれない。
――らしくないのだ。
これは杞憂ではない。
傍若無人たるリクコの言動だとキューには到底思えないのである。
「リクコ……」
「分かるよお、キューちゃん。よぉく分かってる。分かってるんだ。でも……分からないの。どうしたらいいか分からないのよっ。暴走モードのオリジンを斃すだけなら簡単。それがナノマシンで繋がるユキノちゃんを害せずに、となると途端に不可能になる……」
視界の隅でリクコが項垂れるのをキューは見た。
「面白いヤツだと思ったんだ――だから殺したくない!」




