舐めプですか
【前回のあらすじ】
復活
全身のあちらこちらに血糊のついた容貌はその悲惨さを思わせる。
癖っ毛の強い髪は束ねずに帽子を被って、溢れた髪がそれぞれ好き勝手に波形を描いて広がる。
キューの華奢な体から放たれる侮蔑の念は、彼女を仰ぎ見るユキノにも十二分に伝播したようで、みるみるうちに顔が青ざめていく。
確かに致命傷を与えたはずであると、自身の記憶と照合しているのだろう。目を四方八方に泳がせている。
――防御もままならない高速の一撃だった。
事実キューは凄まじい勢いで床や壁に叩きつけられ、全身の骨が砕け散った。そのはずであった。
だが、目下いかにも平然と立って構えて、なるほど怪我の痕跡など端から存在しないとでも言いたげに見下ろす少女に、ユキノは戦慄とも違う得体の知れなさを感じていた。
「そうか、自己……再生能力っ! ……でも、こんなの反則よ。確かに研究データに記述はあったけど、こんな短時間で……あり得ないっ」
狼狽るユキノにリクコが応える。
「キューはドクターの最高傑作なのよね。その分秘匿事項も多いし、あんな怪我じゃ斃せないのは当たり前なんだけど――。まあ、私もさっきまで忘れてたしおそろじゃん、やったね。流石マイフレンッ」
「……リクコ」
「……おぅ」
キューの一声でリクコが押し黙る。
「ノリを逃してくれたことは感謝しますが、なんでまだこの大きい子を倒せていないんですか? あなたならもう制圧して事後処理も終わらせてしまえるはずですよ……ね……あっ」
急に何やら察したようでキューはこう付け加えた。
「そうですか舐めプですか」
「おぅ…ぅ。チガウヨー、私いっしょーけんめーたたかったもんっ。まさに未曾有の危機でした」
図星を突かれてわざとらしく挙動不審になるリクコをあからさまな蔑視でもってため息混じりに見下ろす。
慢心とも違うリクコのある種病的なその姿勢を、キュー自身認識していなかったわけでは決してないのだが、改めてそうせざるを得なかった。
探究心、というには行き過ぎたそれを責めるつもりは毛頭ない。
そのおかげで今の自分が存在していられるのだ。
しかし、貴重な一張羅をネグリジェを着た変態中年男性マネキンに持たせ、匂いを嗅がせるように手を鼻のあたりに置いて三日三晩放置するのを、悪戯心でなく探究心というのであれば――の話だが。
――だだ言えるのはあのマネキンに近づくと全身がむず痒くなるようになってしまったのは、果たしてリクコのせいに他ならない、ということである。
キューはそれを思い出すたびにわなわなと湧いてくる衝動を、今は抑える気になれなかった。
「第一なんであのマネキン生臭いんですかぁぁぁぁぁぁっ!」




