ここは私に任せて逃げろ
【前回のあらすじ】
ヒロイン退場?
筋骨隆々の牡鹿の身体に幾重にも枝分かれした重く鈍色に光る角を携え、目の辺りから垂直に削れた頭部の断面に饕餮紋の面をはめ込んでいる。
向かって正面――前脚の付け根の少し上から縦に切り込みがあり、その口を模した孔から舌よろしくベロンと垂れ下がった細長い紫の触手のような器官が、鎌首をもたげこちらを見据えていた。
アレには見覚えがある。
キューの尻尾と同じ――。
「キューッ!!」
ぐにゃりと曲がった四肢や関節と、身体中の至るところから出血しているのが遠目にも認められる。
帽子は落ち、衝撃で纏めた髪が解けてしまっている。癖っ毛のある髪の一部は血を吸って紅くなっていた。
――生きているのか死んでいるのかも分からない。
駆け寄りたくても障害が立ち塞がっている。
口惜しくてノリはもう一度その名を叫んだ。そして彼の叫びに呼応するように大きいななちゃんが更に大きな咆哮を上げた。
「ギィヤアアアアアアアアアアーーッ!」
「キャハハハハハハッ! 死んだ死んだアアアアアア雑魚雑魚雑魚ッ! 行けっ、ヤレッ! 他の雑魚もブチ殺せェェェッ!」
「クソ……ユキノ……この、野郎オオオオオオォ!」
策なんてなかった。
徒手空拳で敵うような相手でないことは百も承知だ。わざわざ殺されに行くようなものだと――そんな簡単なことは理解している。
でも――。
ここで闘わないのが大人だというのなら、今闘って死んでやる。
大きいななちゃんが振り上げた舌を動かそうした時――ノリの服の襟首を誰かが掴み、そのまま後ろに何メートルも投げ飛ばされた。
そうして丁度後ろには控えているななちゃんをクッションにして衝撃を抑えられたため、怪我はせずに済んだ。
投げ飛ばしたのはリクコだった。
彼女は振り下ろされた舌の攻撃を手一つで受け止め、その動きを封じている。
「なっ……」
「ここは私に任せて逃げろッ! 帰ったらみんなでメロンめんたい味のポップコーン、食べましょ」
ノリが「でもまだ周囲にはななちゃんたちが陣取っている」と言おうとした矢先――視界にいたほぼ全てのななちゃんが一斉に倒れ込んだ。
これがノリに掴みかかるまでやってのけたリクコの業だと認識した瞬間、ノリは悟り、一目散に出口に向かって走り出した。
後ろからはユキノのけたたましい笑い声が不気味に響いていた。
ここからの視点をノリのまま続行すると物語が破綻するので、色々変化させなくちゃいけない。




