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純平の過去 1 『出会い』

僕はずっと1人だった。親の顔を知らず、人の優しさを知らず、他人の温もりを知らず。


孤独な世界で生きてきた。自分以外は敵だと決めつけて生きてきた。


そしてあいつに出会った。


佐藤すず。僕にとって大切と思えるかけがえのない人間だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「こんなところで寝てたら風邪ひきますよー。」


耳元で女の子の声がすることにこれでもかというくらい驚いて、僕は跳ね起きた。


新しい寝場所に公園を選んだのは間違いだっただろうか。


「あ、びっくりさせちゃった? ごめんね。」


優しく悠長な口調は春という今の季節にぴったりだ。


「私、佐藤すず。君名前は?」


「他人に名乗るような名は持ち合わせちゃいない。失せろ、目障りだ。」


かなり強い言葉を選んだつもりだったが少女には響かない。


「なんでこんなとこで寝てるの? 冬は終わったけど寒いでしょ?」


「それを聞いてもお前が後味悪くなるだけだ。」


「なんで1人なの? お家に帰らないの? ここで何をしてるの? お腹空いてる?」


どれだけ突き放そうとしても次から次へと質問をしてくる少女にとうとう我慢の限界がくる。


「うぜえな、どっか行けよ!!」


それには流石の少女も口を止めて、数秒こちらを見つめた。


「……わかった。ごめんね。」


「2度と来んな。不愉快だ。」


立ち去る背中に釘をさすようにハッキリと言った。




しかし次の日、またも少女は姿を現わす。


「よかった、今日もいた!」


「2度と来んなって言ったよな、なめてんのか。」


「イライラするのは糖分が足りない証拠だってママが言ってたの。はい、ドーナツ。

ママに内緒でたくさん持ってきたの。」


「いらねえ。そういう哀れみとか大嫌いなんだよ。胸糞悪い。」


「おいしいから食べてよ。せっかく持ってきたんだし。 ほら、いい匂いでしょ?」


「いらねえつってんだ……」


言葉を遮るようにお腹が大きな音を立てる。


最悪だ。2日食事抜きだったのがここにきて悪目に出た。


「身体は正直だね。 心はどう?」


「……っち、今回だけだ。これを貸しとか信頼の証とか勝手に決めつけんじゃねえぞ。」


「早く食べなよー。」


言われて渋々ドーナツを手に取り、一口かじる。それからは野生動物のように次から次へとドーナツを貪った。


「おいしいでしょ?」


「……普通。」


口の中に広まる久々の砂糖の味を全身で感じる。そして考える。誰かに食べ物をもらったのはいつぶりだろう。


するとその時少女が笑いかけてくる。僕は舌打ちをしてそれからその日は一言も言葉を交わさなかった。




次の日も次の日もそのまた次の日も、少女は毎日毎日僕の居座る公園を訪れた。


何度来るなと言っても毎日来た。たびたび食べ物をくれた。


いつしかその恩は返しきれないほど大きなものになり、僕はだんだんと心を開き始めていた。


そして初めて会った日から早くも半年が過ぎた。


「ねー、そろそろ聞きたいな、君の名前。」


「……黒木純平。」


「え?」


「黒木純平だよ、僕の名前。」


「……そっか。純平君か! うん、想像通り、いやそれ以上にいい名前だね。」


「……普通だろ。」


純平は照れ臭そうに言った。


「純平君さ、ずっとこの公園に居て飽きない?」


「飽きる飽きないの問題はとうに越えたよ。他に行く場所もない。 ここは警察も来ないから職質もされない。住みやすいよ。」


「んあー!! 暗い、暗いよ純平君! それでも君は子供なのか!?」


「そうだな、12歳はこの国の法律的には子供だ。 でも俺は十分に自立した大人のつもりだけどな。」


「12歳!? 私たち同い年だったんだ!」


驚いた表情を浮かべる少女に「いちいちオーバーだな、」と冷ややかなツッコミを入れる。


「そっか、同じ12歳なんだ。すごいなぁ……。」


少女は小声で呟いた。純平はそれを上手く聞き取れなかったが聞き返したりはしなかった。


「で? 結局お前何が言いたかったの?」


「あ、そうだった。純平くん、私が町案内してあげる!」


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