柴の分析
『ネクストヒューマン』
もちろん捜査に進展があるはずがない。聞き込みも身辺調査も大した成果は得られなかった。
防犯カメラの映像から犯人の画像を出して指名手配するべきか……?否、相手は化け物。余計な刺激を与えるのは避けたい。だが画像は唯一にして大きな手掛かりだし、
そこまで考えたところで携帯の着信に気がつく。 課長からだ。
「はい、柴です。」
「八王子でお前らが捜査してる事件の遺体と全く同じ状態の遺体が発見された。」
「ーーッ! わかりました、すぐ行きます!」
電話を切るとすぐさま別のところにかける。
「はい、三上っす。柴さん何かわかったんで……」
「八王子で新たな遺体が発見された。現場で落ち合落ち合おう。」
要件だけ伝えて電話を切ると、急ぎ足で外に出る。
するとちょうどそのとき、目の前に一台の車が止まる。
「早く乗れよ。」
「河野、お前も行く気か?」
「犯人の本性知ってんの俺ら2人だけだぜ? なんで急に仲間はずれにしようとするんだよ。」
「お前、新婚だろ。奥さんの中に赤ちゃんもいる。犯人の本性見たろ? 相手は化け物だ、遭遇すれば間違いなく殺される。」
「アホ。犯人が怖くて警察官ができるか? 仕事もろくに出来ない奴が立派な父親になれんのかよ。」
柴はため息をつくと観念したように「そうだな。」と言って、車に乗り込んだ。
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「……なあ柴。」
「ん?」
「お前は一流の警察官だ。」
「なんだよ、いきなり。やめろよ。」
「同期の中で一番のエリートだよ。」
「どうしたんだよ、急に。」
河野はそのあと息を詰まらせるように少し間を空けて次の言葉を口にする。
「今回の事件、正直どう思う?」
「どうって何が?」
「解決、できると思うか?」
「あのなぁ、俺今朝後輩にネガティヴ発言はやめろって指摘したばかりなんですけど。」
呆れるように柴は言う。
「わかってるよ。でも根性論でどうにかなるもんじゃないことだってわかるだろ。」
「ーー。俺は解決出来ない事件はないと本気で思う。」
「相手は化け物だぜ?」
「……そうだな。 でも多分本来は人間だ。」
「どういうことだ?」
「例えば、映像では生えたように見えた尾は特殊な武器かもしれない。
例えば、防犯カメラの映像が犯人にすりかえられてるかもしれない。
仮説なんてその気になればいくらでも立つ。
ただまだ俺らの知らない何かが存在する、どの事件も同じことだろ。」
問題はその何かが想像もつかないってことなんだがな。
車の窓から月を見上げて柴はそう考える。
「やっぱすごいな。俺なんかとは全然違う。」
「ーーいや、多分こんな考え方できるようになったのは三上の影響かな。」
「へえ。お前がそこまで言うなんてな。」
「面白いやつだよ、あいつは。ふざけたやつなくせに芯だけはしっかりしてて、たまに先輩の俺が考えさせられるよ。」
初めて三上に出会った日、こいつは絶対この国の、警察界の宝になる。
そう感じたのを今でもはっきり覚えている。
「……夜中のドライブは信号が無くて運転が楽しいな。」
「テンション上がる曲でも流すか?」
「CDあんの?」
「俺の生歌だよ。」
「全力で遠慮しとく。」
2人を乗せた車は静かな夜を軽やかに走り抜けていった。
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ーー歩道橋の上。
男は深夜の道路を走るたった一台の車を見下ろしてニヤける。
「さすがだ、柴 勝也。 あぁ、早く殺りたい。殺りたい、殺りたい、殺りたい!!
抑えろ、抑えろぉお。じっくり熟してこそ殺しは楽しいノダカラ……。」




