第8話 廃品の荷車が、宝の山に見えて困ります
鍬三本と鋏一丁を直す仕事は、銀貨一枚になった。
銀貨が工具箱へ落ちたとき、俺は蓋を閉めずにしばらく眺めた。
マルタさんが笑う。
「手間賃にしては安い。それでも売り物にできるとわかったのは、大きいね」
次の荷車には、農具以外のものも載っていた。
古い魔導具。曲がった荷車の車輪。蓋のない鉄鍋。
たぶん、どこかの倉庫を一つ片づけてきたのだろう。
「全部買い取るなら、銀貨三枚」
「今ある銀貨は一枚です」
「知ってる」
商人は楽しそうだった。
俺は荷台の物を順番に診断して、板へ印を書いた。
青い丸は修理できそうなもの。白い丸は材料に使うもの。
中心の魔石が粉々になった照明具には、印をつけなかった。
その石を俺が作り直すことはできない。
マルタさんは、三つの印を見比べた。
「同じようなものに見えるけどね」
「壊れ方が違います」
「これを動くと思って買う人は、少ない」
「だから、安くしてください」
彼女が声を立てて笑った。
俺たちは結局、売れたあとの利益を分ける契約にした。
マルタさんが廃品を用意し、俺たちが直す。材料費を引き、残りを半分ずつ。
値札と預かった品の番号を帳面へ書く。
トトはそこで、初めて銀貨に触ったらしい。
母親が見ている横で、真剣に数えていた。
砦で使う分は別に決めた。
食堂の明かりを一本、門の脇を一本。
残りは、町で売ってもらう。
照明具が動いた夜、皆が食堂へ集まった。
煙の出ない光は、それだけでご馳走のようだった。
ボルドさんは、継ぎ足した線を指で弾いた。
「ここ、後で外せるようにしとけ。次に切れたらまた開けるんだ」
俺は頷いて、留め具を替えた。
直すことに夢中になると、次に直す人のことを忘れる。
前世で散々、そういう設備に苦労したはずだった。
商売が軌道に乗るまでには、街道も直す必要があった。
砦の手前の橋は、馬車一台でも板がたわむ。
マルタさんは、毎回そこだけ荷を下ろしていた。
俺が橋の梁に触れると、青い線がすぐ途切れた。
下流側の支えが、途中で腐っている。
「橋を一日閉めて、入れ替えたいです」
エステルさんが、村の人たちと話し合ってくれた。
俺は木材を切る位置を描き、ボルドさんが必要な金具を打った。
重い梁はハチが運ぶ。
橋の上へ人を乗せる前に、石を積んだ荷車で試した。
車輪が真ん中を通っても、板は沈まなかった。
最後にマルタさんの荷車が渡った。
手綱を握る御者が、こちらへ親指を立てた。
「次は、粉を買いたい人を連れてくる」
マルタさんが言った。
砦ではまだ麦が足りない。余った粉を大量に売ることはできないが、客の麦を挽く仕事ならできる。
水車が回る時間と、石臼の掃除の時間を考えて、エステルさんと料金を決めた。
その日の終わり、銀貨が四枚、帳面に記された。
全部、使っていい金ではない。
塩代、木材代、職人の取り分を引く。
俺の分は、銅貨数枚だった。
「思ったより残らないなあ」
呟くと、ミナさんが台所から皿を出した。
焼きたてのパンが二つ乗っていた。
「売上から、食事は出ています」
「それなら、かなりいいですね」
俺はパンを一つ取り、もう一つを隣の席へ残した。
エステルさんは夕方の見回りへ出ていた。
日が落ちているのに、まだ帰ってこない。
砦が直るにつれて、彼女の仕事まで増えていた。




