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第4話 古代ゴーレム、最初の仕事は薪割りです

 倉庫の石人形は、俺より頭二つ分ほど大きかった。

 肩が広く、腕は丸太のように太い。けれど胸に武器を取り付ける場所はなく、背中には平たい板が畳まれている。


「ゴーレムだ。触るな」


 ダンさんが俺の前へ出た。

 近隣には、動くものを片端から攻撃する古代の守衛がいるという。

 この石人形も、いつか暴れ出すかもしれないから倉庫を閉じていたらしい。


「先に、動力を切れる場所を調べます」


 俺は胸の板に手を当てた。

 二十呼吸。

 見取り図には、左腰に動力の遮断器があった。

 ダンさんに場所を教え、棒で操作できるか確かめてもらう。それから胸の蓋を外した。


〈生活支援型 八号〉

〈右脚伝達路 断線〉

〈蓄魔石 残量なし〉


 切れた線をつなぐだけでは、動かない。

 内部には、魔力を通す銀色の細線が使われていた。銅では代用できないと、診断が教える。

 砦の物置を探し回り、割れた照明具から同じ材質の線を取り出した。

 足りない分は、遠回りしていた経路を短くする。

 それでも午後いっぱいかかった。


 蓄魔石に少し魔力を入れ、俺たちは倉庫の入口まで下がった。

 エステルさんが剣の柄を握る。

 俺が頷くと、ダンさんが遮断器の棒を引いた。


 石人形の顔に、丸い光が二つ点った。


『作業、再開』


 低い声がした。

 石の膝がきしみ、巨体が立ち上がる。

 俺は思わず息を止めた。

 人を襲うなら、あの足だけでも十分だ。


『居住者、確認。食糧、確認』


 石人形は倉庫を出て、広場の水桶を見た。

 次に、台所の入口へ向かった。

 全員があとを追った。


 台所にいたミナさんが、鍋を抱えて固まる。

 石人形は積まれた丸太を持ち上げ、横にあった斧を見た。


『薪、作成』


 俺は止めようとした。

 その前に、丸太が両手で割られた。

 乾いた音が響き、同じくらいの太さの薪が四本、足元へ置かれる。


「手で割った……」


 ダンさんが槍を下ろした。

 石人形は次の丸太を取った。

 ミナさんが恐る恐る言う。


「それ、大きすぎるの。鍋の火には、半分くらいで」


『修正』


 薪が、もう半分になった。

 台所の隅に、今日必要な分の薪が整然と積まれていく。


 俺たちは、その場で顔を見合わせた。

 トトが母親の後ろから覗き、石の肩を指差す。


「八って書いてある。ハチでいい?」


 石人形が顔を向けた。


『呼称、登録。ハチ』


 何百年前のものかわからない古代ゴーレムに、名前がついた。

 ただ、気を抜くのは早かった。

 ハチは薪を割り終えると、物干し場の支柱まで引き抜こうとした。


「待った。それは薪じゃない!」


『材質、木』

「木でも、使っているものは割らない」


 俺は皆に頼んで、薪にする木の置き場所を決めてもらった。

 広場のどこでも採っていいわけではない。生活の仕方まで、このゴーレムが知っているわけではなかった。


 夕方には、ハチの目の光が小さくなった。

 最初に入れた魔力を使い切りかけている。

 診断で背中の板を見直すと、日光を蓄魔石へ取り込む仕組みだった。

 表面を拭いて板を開き、日の当たる壁の前へ座らせる。

 今日できる仕事は、これで終わりだ。


「明日は、どれくらい動きますか」


 エステルさんが聞いた。


「天気にもよります。働かせる時間より、充電する時間のほうが長いかもしれません」

「十分です。薪割りだけで、二人が休めます」


 ハチの前には、小さな桶が置かれていた。

 トトが、皆と同じように夕飯を用意したのだ。


『燃料、規格不適合』


 ハチが言う。

 ミナさんが笑いながら桶を片づけ、代わりに布で顔の煤を拭った。


 俺はその光景を、少し離れて眺めた。

 石人形の顔は、動き始める前と変わらない。

 それなのに、暗い倉庫で見たときより、ずいぶん違うものに見えた。

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