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第24話 黒鐘、再起動

 主炉の台は、すでに補強してあった。

 先に直しておかなければ、今からでは間に合わなかった。

 第三環を荷台から移し、溝へ合わせる。

 ここには、まだ時間がかかる。

 軍用炉に取り付けるため、外側へ増設された板を外さなければならない。


 アイナさんが、古い記録と俺の図を並べた。

 見習いが工具を手渡してくれる。

 手を当て、呼吸を数えた。

 診断の青い線に、歪んだ部分が示される。

 環自体の流路は残っていた。

 完全に潰されていない。


「この板を取れば、使えます」


 俺は順番に留め具を外した。

 焦って同時に外すと、板の下で引っ張られている薄い線を切ってしまう。

 目の前の工具と、青い線だけを見る。


 外から、砦の鐘が鳴った。

 先に割れ目を直しておいた、あの黒い鐘だ。

 角笛と違って、地下まで低い音が響く。

 人がどこへ行くべきか、決めていた回数で鳴らしている。


 虚食獣が、砦へ近づいていた。

 炉を止めても、放出した滓を食べ終われば、壁の周りに残っている分へ来る。

 かすかなものまで嗅ぎつけるのだろう。

 砦は、長く循環を止めたままだった。


「地下の出口、開いています!」


 水路を見てきたダンさんが叫んだ。

 俺は頷いた。

 第三環を台へ戻す。

 最後の位置決めだけは、人の手では足りなかった。

 残った作業ゴーレム二体が、ゆっくり環を下ろす。

 下げすぎないよう、アイナさんが横から合図した。


 環が、溝へ収まった。


 俺は三つの接続を確かめた。

 足りないところへ、砦で保管していた細線をつなぐ。

 接合を使うと、指先がまた震えた。

 一度手を離す。

 見習いが、俺の代わりに留め具を締めた。


「ここは、教わりました」


 彼は俺を見ず、作業を続けた。

 その声で、焦りが少し薄れた。


 塔の上で、石が鳴った。

 窓から見える空に、黒い膜が広がっている。

 虚食獣の脚が外壁へ触れた。

 削れた石が、広場へ落ちる。


 エステルさんが叫んだ。

 俺へではなく、門のところに残った兵へ向けた指示だった。

 先ほどまで攻めていた兵も、皆で怪我人を運んでいる。

 母とリーネは地下で、ミナさんを手伝っていた。

 誰も、そこで俺の名を呼び続けたりはしなかった。

 それぞれに、することがあった。


 俺は主炉の始動盤へ手を置いた。


〈三環接続 正常〉

〈還流路 正常〉

〈外周支柱 一基断線〉


 まだ、足りない。

 軍用炉に撃たれた場所の支柱だった。

 そこだけ、壁の守りがつながらない。


「北の支柱が切れています!」


 俺は入口へ叫んだ。

 ダンさんが走った。

 ボルドさんも工房から出てくる。

 俺の図を見ている人たちなら、つなぐ位置はわかる。

 診断そのものを、もう一度しなくてもいい。


 外で、大きな盾を引きずる音がした。

 守衛が支柱の前へ立ち、人を守った。

 その後ろで、ボルドさんが補修線をはめる。


 台の上へ、青い光が戻った。


〈外周接続 正常〉


 俺は始動盤を押した。

 第一環が回る。

 第二環が、遅れて光る。

 第三環から、低い音が立ち上がった。


 床の下を、水に似た振動が走った。

 壁の内側へ線が伸び、広場の石を一周する。

 砦の屋根の上に、透明な薄い膜が張られた。


 虚食獣の脚が、その膜へ触れた。

 青い波紋が広がる。

 壁が、今度は削れなかった。


 炉を動かしたことで、新しい魔力の滓も生まれる。

 それは第三環へ集められ、地下の流路を通って薄く戻されていく。

 光は、外へ漏れ続けなかった。


 俺は息を吐いた。

 だが、まだ喜べなかった。

 獣は砦の上にいる。

 動かすだけでなく、守りきるまで、炉を止めないことが必要だった。

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