第23話 俺が直すのは、撃てなくするためです
板が抜けた。
その下に、三つの短い把手が並んでいた。
一つ目は供給。二つ目は保持。三つ目は放出。
見取り図には、順番を間違えれば環を壊すと示されている。
俺は供給を閉じた。
管の先の光が、小さくなる。
次に、保持をゆるめる。
枠の中で、金属が擦れた。
「止まるのか」
兄が聞いた。
「これから、溜まった分を逃がします。皆、正面から離れてください」
父の声で、兵が左右へ散る。
エステルさんは盾を立て、俺の横へ残った。
「あなたも離れてください」
「では、作業が終わったら、一緒に戻ります」
俺は返事の代わりに頷いた。
放出の把手へ触れる。
今度は、握るだけで指へ熱が伝わった。
手袋は魔法の火でも何でもない。長く持てば、当然痛む。
ハチが、俺の手の前へ細い鉄棒を差し出した。
工具箱から選んだものだった。
俺は棒を穴へ通し、直接触れずに把手を押した。
炉の横から、青い霧が噴き出した。
魔力そのものではなく、溜め込まれた滓が外へ出たのだ。
虚食獣の翼が、地上へ近づく。
俺たちは餌を一度に放ったことになる。
ただ、これ以上作り続けることは止められる。
放出が弱まったところで、第三環の固定を外した。
環の下側に、古い刻印が見えた。
黒鐘主炉、第三環。
登記の番号と、同じだった。
俺は環を引こうとした。
重い。
見た目よりずっと密な金属でできている。
ハチと作業ゴーレムが両側を持ち、荷台へ移した。
その直後、空が暗くなった。
虚食獣が、炉の上へ降りてきた。
長い脚が鉄板へ触れる。
金属の角が、紙のように折れた。
「戻って!」
エステルさんが俺を引いた。
父と兄も走り出す。
ハチが荷台を押し、その後ろへ作業ゴーレムが入った。
俺は走りながら、一度だけ振り返った。
獣の翼が炉を覆っていた。
放出した滓を吸い込むたび、体の内側に光が走る。
地面へ落ちた枝や鉄板も、脚に触れて砕けた。
これに剣や槍を向けて勝てるとは思えなかった。
後ろから、欠けた車輪が転がってきた。
ハチが右腕を広げ、荷台の前で受ける。
石の肘が割れた。
腕が落ち、地面へ重い音を立てる。
「ハチ!」
『搬送、継続』
彼は残った腕で荷台を押した。
俺が戻って腕を拾おうとすると、エステルさんが止めた。
「あとです。今は、環を!」
俺は歯を食いしばり、走った。
非情な判断ではなかった。
ここで皆が止まれば、戻る場所までなくなる。
門のそばへ着くと、外の兵たちが集まっていた。
橋を渡りきれず、壁を見上げている。
ダンさんが上から、武器を外へ置くよう呼びかけた。
父が自分の剣を抜き、鞘ごと石の上へ置いた。
家の兵も、続いた。
兄は炎を灯そうとして、手を下ろした。
代わりに、倒れた兵の肩を担いだ。
彼の鎧にも、負傷した者の血がついた。
広場へ入ると、ボルドさんが荷台を待っていた。
「環、こっちだ!」
俺は主炉へ走ろうとして、ハチの脚が止まったのに気づいた。
片腕を失い、内部の線が一部切れている。
目の光が、小さく点滅した。
『搬送、完了』
俺は残った手へ触れた。
冷たい石だった。
「ありがとう。ここで休んでいて」
ボルドさんが、俺の肩を押した。
「こいつは俺が見る。おまえは、街を動かせ」
俺は頷いた。
主炉のある塔へ入る前、エステルさんを振り返る。
彼女は門へ戻ろうとしていた。
目が合う。
「戻りました」
俺が言うと、彼女は初めて小さく笑った。
「はい。あとは、ここで生きましょう」




