第20話 七人の兵と四体のゴーレムで、百人を止めます
朝の霧の向こうに、父がいた。
馬に乗り、兜をかぶっている。
兄はその横で、炎の槍を空へ浮かべていた。
「ルーク。門を開けろ」
父の声が届く。
俺は壁の上から、保全書を広げた。
「接収を止める文書が出ています。父上にも、写しが届いているはずです」
「局長は、設備の危険を取り除くための立入りだと言っている」
「住人を追い出して、炉を持ち去るのが立入りですか」
父はすぐ答えなかった。
兄が前へ出る。
「おまえが素直に従えば、誰も困らない!」
「俺が従ったら、ここで暮らす人は困るんです」
広場では、避難を終えた人たちの家が空になっていた。
見習いたちだけが、必要な工具を工房から地下へ運んでいる。
俺たちは、ここで人を倒すために待っているのではない。
門を開けなくても生きていけるよう、修理を重ねてきた。
ヴァレスが、兵の後ろで手を上げた。
傭兵たちが橋へ進む。
父はその動きを見て、何か言いかけた。
だが、止めなかった。
矢が飛んだ。
木の覆いに、三本刺さる。
俺は頭を下げ、合図の紐を引いた。
門の内側で、守衛が盾を立てる。
格子の隙間へ差し込まれた鉄の棒が、押し返された。
傭兵はすぐ次の方法へ替えた。
太い丸太を運び、扉へぶつける。
音が腹へ響いた。
直した鎖が鳴る。
エステルさんは門の脇へ兵を寄せ、狭い隙間から槍の柄で手元を打たせた。
橋に立てる人数は少ない。
丸太を押す者が崩れると、後ろの兵も進めなくなった。
「カイル様!」
誰かが兄を呼ぶ。
炎の槍が、門へ飛んだ。
「水!」
俺が叫ぶ。
ハチが揚水器の握りを動かし、別の作業ゴーレムが貯水槽の弁を開けた。
門の上から水が流れ、濡れた厚布を広げる。
炎が消えるわけではない。それでも木へ移るのを遅らせられる。
ダンさんが燃えた端を切り、地面へ落とした。
兄は二度目の槍を放った。
俺たちは同じ手順を繰り返した。
派手な攻撃魔法は、いつまでも同じ数を出せるものではない。
四度目で、兄の腕が下がった。
門の外で、兵が一人倒れた。
混雑した橋で足を滑らせ、縁へぶつかったらしい。
エステルさんが、攻撃を止めて運ぶよう外へ叫んだ。
誰も拾わなかった。
前進の号令が、まだ続いていた。
「ダン。私と来て」
エステルさんが、横の小さな通用口へ向かった。
盾を持ち、短い距離だけ外へ出る。
相手の兵が振り向く前に、倒れた男を引きずって中へ戻した。
扉が閉まる。
肩で息をしていたが、手は怪我人を離さなかった。
「勝手に出ないでって、俺には言ったのに」
「次に言っていただいて構いません。今は、水を」
俺は水と布を持って走った。
敵の兵も、血が出れば同じように顔色を失う。
ミレイユさんの付き添いが治療を手伝った。
昼前、門への攻撃が止まった。
こちらの扉には焦げ跡がつき、盾も大きくへこんでいた。
それでも門は残っていた。
兵士たちが座り込み、順番に水を飲む。
外の野営地から、父の怒鳴る声が聞こえた。
兄へではない。
ヴァレスへ向けた声だった。
俺はその先を見るため壁へ上り、足を止めた。
鉄の輸送車の上に、大きな管が起こされていた。
管の根元で、輪が青白く光っている。
俺がずっと探していた、第三環だった。




