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第19話 妹は、父の言いつけを守りませんでした

 期限の前夜、門の外で白い旗が揺れた。

 巡察官の通行旗だった。

 その後ろに小さな馬車が一台ある。


 ミレイユさんは、道を塞ぐ兵の前へ馬を進めた。

 何かを読み上げ、文書を渡す。

 相手はすぐには通さなかったが、やがて杭を一本抜いた。


 門に近づいた馬車から、リーネが顔を出した。

 俺は思わず壁から身を乗り出した。


「どうして来たんだ!」

「会いに来たの。門、開けてよ!」


 その横から、母も顔を出す。

 俺は門番へ合図し、階段を駆け下りた。


 母は俺の顔を見て、痩せたと言った。

 リーネは服の袖を見て、ほつれたままだと言った。

 どちらにも、今すぐ答えられなかった。

 ただ、二人とも歩いて馬車を下りたので、胸の力が少し抜けた。


 ミレイユさんが持ってきたのは、王国領政院の保全書だった。

 専売局による砦の接収を停止すること。

 第三環を現状のまま検査へ提出すること。

 試験計画を、独立した技師の確認が終わるまで止めること。

 局の印ではなく、領政院の登録印がある。


「ヴァレス局長にも渡しました。今夜のうちに従うよう求めています」


 俺は肩の力が抜けかけた。

 しかしミレイユさんは、まだ紙を片づけなかった。


「彼は、これは国防を妨げるものだと反発しています。巡察部を差し向けたのはあなたたちだ、と」


 エステルさんが、外の野営地を見た。

 兵は減っていなかった。


 リーネが鞄から、綴じた紙を出した。

 父の工事記録と、倉庫の貸出帳の写しだった。


「お母様と一緒に、取りました。勝手に倉庫へ入ったんじゃないわ。家の会計を見ているお母様に、お願いしたの」


 母が頷く。

 六年前、第三環は修理のためヴァレスへ渡された。

 ただ、家の帳面では、返却済みと扱われていた。

 その後の倉庫記録には、同じ番号の品が『軍用試験器材』として別の場所へ運ばれている。

 役所と家の帳面で、違う説明が続いていた。


「ずっと、夫に任せていたの」


 母は紙を押さえた。


「これを、砦へ戻せないのか聞いたわ。国の仕事だから口を出すな、と。あなたがいなくなっても、あの人にはその言い方しかなかった」


 ミレイユさんは、写しを原本と照らせるよう、母に保管場所を聞いた。

 母は全て答えた。

 父を困らせるとわかっていたはずだ。


 リーネが俺へ近寄る。


「カイル兄様は、お兄様が局へ来たら全部うまくいくって言ったの。修理ができるから、炉も心配ないって」


 俺は黙った。

 専売局が欲しいのは、砦だけではない。

 軍用炉の不具合を直す人も欲しかったのだろう。

 調査される前に、無理に設備を動かすつもりかもしれない。


「無事なら、いい。二人とも地下の部屋へ行って」


 そう言うと、リーネは少し怒った顔をした。


「話はまだ途中よ」

「途中のまま、あとで続きを聞く。今夜はそこがいちばん安全なんだ」


 エステルさんが案内を引き受けた。

 母は彼女の手へ触れ、俺がお世話になっていますと言った。

 その言葉で、彼女の頬が少し赤くなる。

 俺は気づかないふりをした。


 夜更け、ミレイユさんが野営地へ返事を取りに行った。

 付き添いの兵を伴い、砦の外へ出る。

 ほどなく戻った彼女は、机へ一枚の紙を置いた。


「局長は、保全書を受け取っています。それでも明朝、設備を接収すると宣言しました」


 紙の下には、見慣れた兄の署名もあった。

 朝まで待てば済む状況ではなかった。

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