第18話 修理師たちの、戦争の準備
翌朝、外の兵は増えていた。
ヴァルト家の兵と、専売局が雇った傭兵。
全部で百人は越えると、エステルさんが言った。
砦の守備兵は七人だ。
勝てる数だ、と軽く言える差ではなかった。
ただ、相手が百人いても、同時に門を通れるわけではない。
砦の前には、狭い石の橋がある。
壁の下は谷と崖だ。
エステルさんは紙に道を描き、攻め手が立てる場所を示した。
「ここを塞げば、時間は稼げます。問題は、門を焼かれることです」
兄は炎の槍を使う。
木の扉だけなら、長くは持たない。
俺は門の奥にある消火用の水槽を見た。
古い管は、井戸の水路へつながっている。
診断で壊れた弁を探し、地面の板を外す。
ボルドさんと見習いが、代わりの弁を作った。
俺は途中の裂けた管をつなぎ、井戸から水を送れるか確かめた。
握りを動かすと、門の上で水が出た。
勢いは弱いが、火を抑えるだけなら使えそうだった。
塔の鐘にも足場を組んだ。割れ目を合わせる作業は先月から少しずつ進めていた。今日は、残った継ぎ目を接合でつなぐ。ダンさんが一度鳴らすと、低い音が地下まで届いた。
俺たちは避難と危険を知らせる回数を決め、入口へ札を貼った。
ゼンさんは、矢が入る隙間へ木の覆いを付けた。
姉妹は古い布を厚く縫い合わせ、搬送用の敷物を作る。
怪我人を運ぶためのものだ。
それを見て、ミナさんが薬箱の場所を確認した。
ハチと、地下で見つかった二体の作業ゴーレムを整備した。
二体とも動力の芯は無事で、関節の線と蓄魔石を交換すれば使えた。
電源を切ったままにしていた守衛にも、ようやく交換用の識別盤が届いていた。
材料は、マルタさんが封鎖前に運んでくれた分だ。
守衛の腕には、刃を戻さなかった。
重い盾を付けて、門を支えてもらう。
相手を追いかける動作は止め、移動の範囲を印で区切った。
ハチたちは、水と資材を運ぶ。
四体あっても、充電なしでずっと使えるわけではない。作業をする二体と、休む二体を交代させた。
外周の支柱も、一基ずつ見て回った。切れかけた伝達線を替え、落ちそうな石を戻す。直した場所は図へ書き込み、ボルドさんたちにも渡した。
アイナさんは、主炉の周りで記録を読み直していた。
第三環を戻せたとして、流路が詰まっていたら意味がない。
俺たちは地下の古い出口へ下り、土砂を少しずつ除いた。
谷へ抜ける水路の奥で、青白い岩盤が見えた。
魔力を薄めて戻す場所だった。
ここまで届けば、黒鐘は本来の仕事をできる。
水路から戻ると、手が震えていた。
何度も接合を使ったせいだ。
次の工具へ伸ばしかけた腕を、ボルドさんに押さえられる。
「替われ」
「最後の留め具だけ」
「留め具は俺でも付けられる」
俺は工具を渡した。
その瞬間、急に足が重くなった。
エステルさんが椅子を持ってくる。
前にも一度、同じことをしてもらった。
「診断まで、私たちが代われるわけではありません。今のうちに休んでください」
俺は反論しなかった。
目を閉じると、槌の音と、板を運ぶ足音がした。
眠るのが怖くなるほど静かではなかった。
夕食のあと、住人を地下の居住区へ案内した。
守衛を止めて調べた場所は、今は安全に使える。
子供と老人は、そこへ避難する。
水と食糧、明かりを置き、トイレまでの道を見てもらった。
トトは布の小さな袋を抱えていた。
針と糸、筆と紙が入っている。
「ここで、看板を描いてもいい?」
「どんな看板?」
「広場の。まだ、黒鐘砦って小さくしか書いてないから」
俺は頷いた。
彼女は床の平らなところへ座り、母親と字の形を相談し始めた。
夜、外の野営地に火が増えた。
俺たちのほうには、食堂の小さな明かりがある。
エステルさんが隣へ来て、湯の入ったカップを渡した。
「怖いですね」
彼女が先に言った。
俺も頷いた。
「かなり」
二人で湯を飲んだ。
温かいものを持つと、ようやく指の力が戻ってきた。




