第17話 砦へ戻れではなく、砦を差し出せと言われました
巡察官が出発して六日目、街道へ武装した馬車が来た。
荷車ではなく、鉄板を張った輸送車だった。
車体の横に、専売局の紋章がある。
門を半分だけ開け、エステルさんと一緒に出迎えた。
鉄の車から、細い髭の男が下りる。
「古代技術専売局長、ヴァレスだ」
俺たちを見ても、挨拶を返さなかった。
彼の目は、門の上と、壁の内側の支柱を測っていた。
「君がルークか。勝手に設備を動かしたそうだな」
「第三環の返却について、お話しできるなら」
「その環は、国防のために使っている」
男は筒から紙を抜いた。
赤い封が押され、上には『緊急保全令』とある。
砦の古代設備一式を専売局へ引き渡すこと。
ゴーレムと修理用の記録を含むこと。
俺は局に雇用され、王都で技術を提供すること。
最後まで読んで、首を横に振った。
「領地と人員まで対象にする権限は、局にないと聞いています」
「誰に」
「王国の巡察官です」
ヴァレスの眉が、わずかに動いた。
「巡察官は現場の危険を理解していない。古代の設備が、不適切に使われている」
「だから、動かすのを止めて、第三環の調査を頼みました」
「君は、自分の立場がわかっていないようだな」
彼が馬車の脇へ合図した。
後ろにいた兵が、道へ杭を打ち始める。
門を攻めるのではなく、街道を塞ぐつもりだった。
「四日やる。安全が確認されるまで、出入りと古代品の販売を止める」
俺は文書を折らず、そのままエステルさんへ渡した。
彼女は受領した時刻を記した。
ヴァレスは笑った。
「記録を残せば、守ってもらえると思うのか」
「少なくとも、何を要求されたかは残ります」
俺たちは門を閉めた。
外から、杭を打つ音が聞こえる。
広場には、人が集まっていた。
商人たちは帰れるかを心配し、移ってきた家族は荷物をまとめるべきか迷っている。
俺は内容を隠さず説明した。
こっそり出られると約束することも、何も起きないと言うこともできなかった。
「今なら、滞在中の客は出してもらえるそうです。暮らしている人も、出たい人は相談してください。残って戦うよう、頼むつもりはありません」
荷車が二台、門の前へ移った。
そのうち一台に、マルタさんが乗る。
彼女は商品をいくつか下ろし、代わりに文書の写しを受け取った。
「王都へ、届けてくる。食糧は置いていくから、帳面に貸しを書いといて」
「ありがとうございます」
「帰ってきたとき、利息をまけるとは言ってないよ」
俺は少し笑った。
残っている銀貨の一部を渡し、運送と食糧の契約を書いた。
彼女の荷車は、ほかの旅人と一緒に外へ出た。
ゼンさんは、家へ戻らず工房へ来た。
「戸を、もう少し厚くできる。夜のうちにやろう」
ボルドさんは門の予備の金具を並べた。
ミナさんは麦袋の数を調べ、台所の担当を呼びに行った。
それぞれが、俺に何をすればいいか聞く前に動き出していた。
俺はエステルさんと壁へ上った。
外には、まだ二十人ほどしか見えない。
だが遠くの街道から、次の荷車が来ている。
専売局だけではない。
見慣れた、ヴァルト家の旗が揺れていた。




