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第15話 返してほしいのは、砦より部品です

 父は馬車から下りて、すぐ広場を見た。

 市の布はまだ張られ、露店の台も残っている。

 次にハチを見て、それから工房の明かりを見た。

 兄は、同じ順に見回していた。


「よく、ここまで片づけたな」


 父が言う。

 褒められた記憶が少なかったので、少し驚いた。

 ただ、そのあとに続く言葉を待ってしまう自分もいた。


「王都へ話を通してやる。この砦を本家の管理へ戻せ」


 やはり、続きがあった。


「どうしてですか」

「古代の設備を動かしていると聞いた。個人の判断で扱うものではない」


 俺は食堂へ案内した。

 エステルさんも同席する。

 父は椅子へ座り、以前なら躊躇なくそうしていたように、手袋を俺へ差し出しかけた。

 途中でやめ、机の上へ置いた。


「専門の技師を呼ぶ。おまえには、町に修理屋を与えてもいい」

「ここに、修理屋があります」

「そういう話ではない」


 ミナさんがパンとスープを出した。

 兄は皿へ目を落とし、父は触らなかった。

 父の言う専門の技師は、誰かと聞いた。


「ヴァレス局長だ。彼ほど古代品に詳しい者はいない」


 俺は第三環の図を出した。

 地下の板から写したものと、妹の絵を並べる。


「これを、返していただけませんか」


 父の眉が動いた。

 兄は俺を見る。


「六年前に工事のため外した部品ですよね。主炉の備品として、まだ登記されています。今も、貸し出している扱いなのでしょうか」

「……工事のことを、誰に聞いた」

「砦に残っていた人と、記録です」


 リーネの名前は出さなかった。

 調べればわかるだろうが、今ここで彼女を責めさせたくなかった。


 父は、炉の部品は調整のため局へ預けているのだと言った。

 六年間、調整していたのだろうか。

 俺はそれを尋ねず、今の用途を聞いた。

 兄が口を挟む。


「国を守るための研究だ。おまえの古い工房より、役に立つ」

「どんな研究ですか」

「おまえに説明する必要はない」


 俺はパンを割った。

 湯気はもう消えていたが、中はまだ柔らかい。


「この工房で、町の人の農具を直しています。水車で麦を挽いて、泊まる場所も作りました。皆が働いているので、簡単に管理を戻す約束はできません」


 父は、俺ではなくエステルさんを見た。


「留守部隊の判断か」

「領主の判断です」


 俺が答えた。

 彼女を矢面に立たせるため、譲渡証を受け取ったわけではない。


 父は不満そうだったが、紙を破ったりはしなかった。

 王国の受付印が、机の上にある。

 あの印を取らせたのは父自身だった。砦の修繕義務を、確実に俺へ移すために。


「こちらは正式に調べます。環の返却についても、文書で回答をお願いします」


 そう伝えると、父は立ち上がった。

 兄は最後に、ハチを動かす方法を尋ねた。


「教えてくれれば、局長も悪く扱わない」

「作業用のゴーレムです。武器ではありません」

「使い道は、使う者が決める」


 その言い方で、何かが引っかかった。

 地下の守衛の刃を思い出した。

 古代の人が作った用途と、今の人が欲しがる用途は、同じとは限らない。


 馬車が出る直前、父は門の下で足を止めた。

 古い格子が、まっすぐ上がっている。


「これも、直したのか」

「はい」


 父は鎖を見上げた。

 それから、何も言わずに馬車へ乗った。


 食堂へ戻ると、父のパンは皿に残っていた。

 兄の皿は、空だった。

 エステルさんがそれを見て、少しだけ笑った。


「味は、伝わったようです」

「じゃあ、今日は半分成功ですね」


 俺は残ったパンを二つに分けた。

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